全てが優しい世界に満ちて

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―――北村ユウ様へ。

正直な気持ちが伝えられない私をどうかお許しください。
今から書く内容に嘘はありません。

どうかそのまま、読んでいただければ幸いです。


私は、貴方と出会う前、

忍びが住む世界で生きていました。
この世界とは違う、人を躊躇なく殺すことができる世界で私は生きていました。

勿論、人を殺したのは数えきれないほどです。
それでも―――仲間を守るために私たちは、その世界で生まれ、命を燃やしていました。



貴方と初めて会ったのは、まだあなたが子供の頃でしたよね。
私はそこで―――貴方に出会い、この世界に絶望しました。



―――それでも、傍にいてくれたあなたのその人柄に、私はこの世界で生きていくことを決めたんです。



制服のまま、走り出した俺は指定された場所に足を進めた。
息がどんなに荒れても、癖毛の強い黒髪が頬に張り付いても己の足は止まることはなくて。


―――7年越しに貴方に会って。


色々と心配をかけてしまったけど。



私は貴方の変わらない冷静だけどぶっきらぼうで、マイペースなその人柄に、

気づかないうちに恋をしていたと気付きました。


「―――はあ…ッはあ…ッ」


目的の場所を視界に入れた俺はそこに立つ金髪の男の存在を見つめた。
荒く零れる息を整えるように足に手をつく。


―――私が貴方に酷いことを言って傷つけたこと。
いまでも反省しています。

あの男と会ったのは

―――私があの男と同じような運命を辿った経緯を聞くためと、

この世界にいれないという話を聞かされたためです。


「―――君が…北村ユウ?」
「―――ッ…ああ、そうだ。」


―――この世界にいる時間がない。そう言われた時は悲しくて仕方なかったけど。
それでも、貴方を無視する理由にはならなかった。


己の視界に入ったのは、見覚えのあるゴミ置き場の場所。
そこに立っていた彼は赤い瞳を細め、声を発した。



「―――エミちゃんが、もしこの世界に戻ってくると決めたのなら、…今日の夜明けまでにしか戻れない。

それを過ぎたら、北村君とエミちゃんは会えなくなるよ〜?」
「……ああ。分かってる。」


―――ねえ、北村。

もし、私があなたが住む世界に生きたいと決めたのなら。


―――貴方の傍にいたいと願っても良いでしょうか?



「―――馬鹿なのはお前じゃねーか…」


7年前に出会った時も、
7年後に出会っても。

己の気持ちは揺らぐことはない。



吉井エミという人間が、己と出会う前に何をしてきたのか詳しくは分からない。

この世界で出会って、バカもしたし、喧嘩も言い合いもしたし、


彼女の無鉄砲さと度胸のある行動に

何度不安と焦燥感にかられたのだろう。



それでも、俺、北村ユウは。



――――吉井エミというちっぽけな存在と生きていきたいのだ。
この世界で。



空を覆う星空が煌めいた瞬間―――空を覆った光に目を細める。
瞬間―――素早いスピードで降りてくるその正体に気づいたのも束の間。


ゴミ箱に着地した彼女の衝撃に地鳴りと突風が住宅街を響き渡り。
思わず尻餅をついた俺は胸元に飛び込んでくる存在に目を見開いた。


彼女の格好は―――最初に出会った時と同じ不思議な格好で。
それでも泣き顔で俺を見上げる笑顔は変わらないもので。


「――――待たせて…ごめんね…」
「本当だな、―――お前は7年前と同じで、俺を不安にさせることしかしねーんだから」


胸の中にある変わらない体温に思わず悪態を含んだ言葉が溢れ出す。
何故か頬を腫れさせた吉井エミの頬を優しく撫でる。



「―――でも、戻ってきてほっとした…」
「え、な…何で?」
「―――だってお前が戻ってこないのなら、俺、将来は孤独死するかもなーって思ってたんだけど。」
「―――ぶ…ッ、何それ…。私が戻ってきたんだからそんなことはないでしょー?」


可笑しそうに笑い青色の瞳に穏やかな色を灯した彼女の目を見つめながら、俺は顔を傾ける。
その動作に目を見開いた彼女の唇におのれのそれを重ねた瞬間―――酷く満たされた思いが心を包んだ。










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