全てが優しい世界に満ちて
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「エミー。今日は旦那さん一緒じゃないのー」
「ぶ―――ッ!」
リラックスして食堂に居座りお茶を飲んでいた私は、後ろからかけられた声に思わず吹き出してしまい。
せき込みながら、声を発する。
「な…急に驚かさないでよ…。北村なら今日は休みだから家にいると思うけど…」
「へえー…、随分と嬉しそうじゃない?でも、苗字同じなんだから…いい加減、下の名前で呼ばないの?」
「―――ッ…く…癖よ癖…ッ。」
―――エミ、好きだ。
ふと耳元に蘇る低い落ち着いた声に顔を赤く染めた私は、恥ずかしさに唇を噛みしめた。
北村と…結婚して、そんな関係になってからまだ日が浅い。
(―――だって…お付き合いもせずに…いきなり結婚…って)
それまで友人の関係だった私と北村ユウが恋人という枠を超え、籍を入れたことは図書隊の北村ユウ、ファンクラブの方々に衝撃を与えてしまった。
―――普通の一般論で考えたら、考えられない行動に最初は止めたけど。
「―――違う世界で生きてきたお前がこの世界に帰っていること自体が俺にとって衝撃がありすぎるんだ。
結婚するくらい、―――何でもないだろ」
―――そう言って笑った彼の笑顔に締め付けられる己の感情。
ああ、私も彼とずっと一緒にいたいのだと。
素直に頷いてしまったのだ。
「―――あれ、手塚。今日、公休じゃない?」
「…部屋にいてもすることないし…。こっちにきたら、お前が野次馬しているんじゃないかって思ったけど…やっぱりだな」
「―――ほっといてよ…。情報収集はあたしの任務でもあるのよ?」
「―――けど、図書館には関係ないだろ…。なあ、北村。」
「え、は…そ…そうじゃのおお!」
―――北村。
改めて己の苗字を言われると照れてしまうのは仕方ないじゃないだろうか。
うううう…と顔を腕に埋めた私の姿にトレイを置いた手塚は肩を竦めた。
「―――関係なかったら、良いなあって私も思ってるわよ」
「―――どういうことだ?」
「内緒…。口にだして本当になったら困るでしょー?
あたし、言霊って信じる方なの」
私の姿に頬をにやけさせながら、頭を優しく撫でた彼女は唇を緩めた。
「まあ、今はそれよりも…初心なエミを見ているのが楽しくて仕方ないわ。」
「―――本当な。随分と落ち着いているのに、ユウのことになると余裕がなくなるなんてな…。」
「―――う…うるさい…!」
―――何でこの二人は付き合っていないのだろうか。
私は不貞腐れたまま、心で呟いた。