全てが優しい世界に満ちて

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「―――エミ、あの男誰だ…」
「え、何の話…?」


―――北村と住んでいる家に帰りついて、ほっとするのも束の間。
壁際に追いつめられた私は彼の鋭い眼光に頬を引きつらせた。

「―――ちょ…何するの…」
「あの男。前まで図書隊にいなかっただろ。…しかも、お前に最近べたべたしてるじゃねえか?」
「あ、ユコトさん…?え、あの人とはなんでもないよ?「へえ…。ユコトさんって言うのか。俺を下の名前で呼ばない癖に、あの男は名前呼ばわりか。」」

おおおおお…怒っていらっしゃるじゃないか。
火村さんとの居心地の良さに、自然と名前を呼んでいる私を見ていたのか。
普段は表情に出さない北村の顔を見上げ、慌てて弁解する。

「―――わ…私は」
「―――俺のこと…好きじゃなくなったのか」


―――不貞腐れたように視線を逸らす彼の頬は赤らんでいて。その顔を見上げながら、ゆっくりと掌を伸ばした私は癖毛の黒髪を撫でた。


「―――彼とは仕事で関わってるだけだけど…。それに、プライベート以外は…あんた以外と一緒にいるのは…ないよ。」


こんなに相手を想い深い愛おしさを感じることは二度とないだろう。
私の言葉に目を丸めた北村のネクタイを引っ張った私は唇を重ねた。
その感触に目を丸める北村を見上げ、唇を離した。


「―――ごめん…。ここ最近、忙しかったからきちんと話せなくて…。」
「―――あ…ああ。俺も…悪かったな…」


私の突発な行動に恥ずかしさを覚えたのか。
頬を赤らめる彼の顔を見ながら、小さく笑みを浮かべた。




――――――――――――――――




「―――あれ、今日は…エミとかあ。久しぶりだね。」

夕食の席で久しく会った笠原の姿に頷いた私は、堂上教官と漂う空気の違いに目を丸めた。
私がいない間に―――何かあったのだろうか。

当麻先生のおかわりという言葉に促され、キッチンに運んだ郁の顔が変わったことに気づいた瞬間、口を閉ざした私は稲嶺指令官の言葉に頷いた。









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