全てが優しい世界に満ちて

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最高裁まであと9日。
図書隊での会議でアイデアを求める玄田隊長の怒声を聞きながら私は隣に座る火村さんに視線を向けていた。
稲峰顧問の家で襲ってきた良化隊から逃げた時に感じた懐かしいチャクラの感覚を感じたのだ。

そんなこと―――ないというのに。
首を振り、己の頭を占める悩みを振り払った私は作戦に思考を巡らせた。
中々アイデアがでない時間の中、響いた声。


「―――最高裁までいって表現の自由が守れないのなら…いっそ、当麻先生。どこかの国に亡命しちゃえばどうでしょうねー」

「「「「………」」」」


笠原のさりげない言葉に私を含め、皆の目が驚きの色を浮かべた瞬間―――その作戦は実行されることになった。


―――――――――――



最高裁で出た判決は敗訴の結果。
当麻先生を大使館に護衛することになった笠原、堂上、そして何故か私が選ばれていまい。
走りながら、イギリス大使館に向かった己たちは生憎の雨空の下、顔を歪めた。


「―――ここもダメです…。」
「―――そうか。…どうするべきか。」


堂上の焦った顔を見ながら、思考を必死に振る絞る。
瞬間―――耳元に聞こえた足音に振り返った。


「―――おい、君、傘が壊れたんだろ?これを使えば―――」
「「――――ッ!」」


良化隊の気遣いは己たちにとってただならぬピンチで。己たちが庇う人物に青年の顔が歪んだ。



「―――お前たち…ッ!?」
「とりゃあああ!」


郁の咄嗟の行動により、吹き飛ばされた彼の意識は無くなっていて。走り出した私は、頬に触れる雨を感じながら走り出した。



―――パンッ!


聞き覚えのある銃声と衝撃に悲鳴を上げ転がる郁の隣で何とか踏ん張った私は、地面に広がる赤に目を見開いた。


(―――この部位の出血はやばい…!)

堂上教官の足の部位に目を見開いた私は悲鳴を上げて彼に近寄る郁の姿を視界に捉えた。

「―――堂上教官!」
「俺がここで足止めする…ッ。行け!」
「嫌です!」

郁の表情が北村と重なったのは何故なのだろうか。慌てて、服の布を破った私は、出血する部分を縛った。


「―――お前たち、動くな!」


発砲の音を聞いたのか――。
走り寄ってきた警官の手によって良化隊が抑えられて。
苦痛の色を浮かべる彼を見下ろしたまま、唇を噛みしめた。


「―――郁、堂上教官を抱えて!走るわよ!」
「…エミ…」

もうやるしかない。
チャクラを使おうが気味悪がられても――私はこの隊の医療委員だ。
当麻先生の手を引きながら、地下鉄にぎりぎりで滑り込んだ私は、郁を振り返る。


「―――そこに寝かせて。私が見るから…!」

「え、でも…どうやって…」
「いいから!」

ポーチがない今、危険な状態の堂上教官を守ることができるのは私しかいない。
不思議そうな表情を浮かべる二人を見らず、患部に手を重ねた私は静かにチャクラを練りこませた。


「―――ッ」


先ほどまで出血していたそのが塞がっていく動作に驚きの声が上がったが。
それを気にせず、チャクラを練りこませた私の頬を伝った汗と滴が床に零れ落ちた。


(―――出血は、…抑えられない。でも、この部位は心臓にも栄養が与えられる血管がある。

…血栓ができないように…緻密なチャクラコントロールがいる…!)


己の掌から溢れ出した柔らかい光と音が視界と聴覚に響き渡る。
傷を塞ぐときに取り出したチャクラの糸によって転んだそれが電車の床に転がり、堂上教官の顔色に苦痛が浮かんだ。


「―――ごめんなさい。痛かったですよね。…もう弾は取り出したので大丈夫ですよ。」
「―――何で…。どうやったの…?」


郁の驚きの顔を浮かべ唇を緩めた私は額に溢れた汗を拭った。
視線を次の案内場所へと向ける。


「―――どうしましょうか…。これから…」

「―――俺の…指定する場所で降りろ…。当てがある…」


私の前で少しだけ、顔色を良くした彼の言葉に頷いた郁を見つめながら息を吐いた。




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