全てが優しい世界に満ちて

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堂上教官の怪我を応急処置をしてから。
良化隊の手より郁とともに逃げ、当麻先生の護衛に当たっていた私たちが無事に英国総領事館の人物の手によって当麻先生を保護してもらったと同時に長い任務が終わった。




――――――――――――


「―――ねえ、北村ー」
「…何だ」
「最近、火村さん仕事辞めたって聞いたんだけど…本当?」

無事に当麻先生を守り終わった私がくたびれながら帰った家でいつもの笑みで迎えてくれた北村の姿に酷く愛おしさが込み上げた。
連絡が取れなかった私を心配していた北村は少し不機嫌だったが、酷く嬉しそうに笑っていた。


そんな私の耳元に届いた事実に、思わず北村に尋ねてしまったのは何故だったんだろうか。


「さあ、何か…もう用事が終わったから帰るって言ってたけど…。何だ、そんなに気になるのか。あいつが。」
「……え、何でそんなに不機嫌そうなんです…?」
「知るか。…で、どうして俺に聞いたんだよ。」

少しだけ機嫌が悪い彼の顔を見上げながら、唇を緩めた私は窓から入り込む風に揺れる茶髪を感じた。


「―――昔、大切だった人に似ていたから…かな」
「ふーん…。そうかよ。」

私の笑みに瞠目した北村の垂れ目が柔らかく細まる。
その穏やかな笑みに目を丸めた私の唇を覆った柔らかい感触。


「―――それで…どうする?」
「―――ッ、な…何が…」
「俺たちの将来設計…だけど。先に、式上げるのと、子供作るか。…どっちを選ぶ…?」


ストレートに伝えられた二つの問い。
高鳴った鼓動と締め付けられた己の感情に唇を震わせた私は声を荒げた。


「な…ユウのド変態!!」
「は…はあ!?…俺は変態じゃねえし!…大体、お前の方がむっつりだろ!」
「な…失礼ね!どこがむっつりなのよ!」

始まった口喧嘩と反対に己の感情が高まっていく。

――ああ、私はこんなことを言いたいんじゃなくて。


「―――俺が触っただけで興奮するんじゃ、随分なむっつりだろ。」
「―――ッ!!そ…そりゃ、そうでしょ!ユウが好きなんだから当たり前じゃん…。

それに、…あんたが言った二つの意見。
どっちも選ぶのは…いけないの…?」



―――ああ、北村エミ。
随分と弱気な発言しかできないらしい。


「―――あ…えっと…」
「何でユウが恥ずかしがってんのよ。」
「おま…、不意打ちで名前呼ぶなんて…反則…ッ」


目元を赤く染め己を見る彼の照れようとその言葉に思わず照れてしまった私は、己が無意識に出したその言葉に唇を震わせた。



「―――何。呼べって言ったの、あんたでしょ。」
「―――ああ、…そうだけどなあ!…〜〜〜!」

まるでゆでだこのように顔と首筋を赤く染めた彼の顔は、普段業務で落ち着いたような口調で話す彼の性格を払拭していて。
髪を掻き、「あああああ!」と声を上げた北村の掌が私の顔に触れる。


額に触れたその柔らかなキスに目を丸めた私を見下ろし、微笑んだ彼の顔が視界に入った。


「―――降参。…俺、やっぱりお前が好きだ。」
「―――ッ」


普段発さないその言葉に目を揺らした私の感情は。



―――目に見えるほど、切なさと愛おしさを彼へと向けていた。







――――――――――






「ねー…俺、もうこの世界に住んじゃダメかな」


とあるビルの上。
空を見上げながら、話す男の名前はギル。
金髪とその赤い瞳と端正な顔立ちを持つ男は小さな幼女に視線を向けていた。


「―――何、言ってるのよ。…あんたにはまだ働いて貰わないといけないんだけどー」
「えー…俺、【神様】のために、随分と働いたと思うんだけどー」


ピンクのフリルのドレスに身を包む美少女は金髪の緩やかな髪を揺らしながら、照らすその太陽を遮るように同じような柄の傘をくるりと回転させた。


「―――ナルトの世界で支払った対価。まだ足りないけど?

まさか無理やり、あの女の子の家族である彼女を無関係の世界にご案内するなんて…世界の歯車が壊れたらどうするつもりだったのー?…上に報告する私の身にもなってよねー」
「―――だって、つまんないだろ?…人の人生というのは、面白くて可笑しくないと」


あの女を連れてきたのは、ただの好奇心だ。
昔殺しかけた俺が表れたことに驚きと警戒を浮かべた彼女に差し出した提案にまさか乗るとは思っていなかったけども。


「それで…俺は次、どの世界に行ったらいいの?」
「―――そうねー。それじゃ、ここでよろしくね♪」

空中に浮かんだままの神様と名乗る少女の本がページを捲る。
瞬間――広がったその名前に唇を緩めた俺は、視界に入る己の世界に目を丸めた。



「―――じゃあね。北村エミさん。世界を巡り、たどり着いた貴方の元に、幸があらんことを。」


視界に蘇る茶髪と蒼の瞳を持つ―――強い意思を持つ彼女の横顔。
またきっと出会えるだろう。
そう考えた俺は、ゆっくりと姿を消す神様の掌を握った。








【完】
 

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