見上げた空は青かった。

□9 もっと近くへ
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【そして、お姫様は王子様のキスにより、魔女の魔法から解き放たれました】





なんて、ハッピーエンドな終わり方だったらどれだけ、良いだろうか。



理想と現実は全く違う。


少女漫画の世界のように、甘く優しい世界に溺れられるものはそこには無い。



――もし、在るとしたら、それは理想とはかけ離れた世界が広がっていることだろうか。






頭の中で渦巻く考えに、少女――木村エミは頭を抱えながら、深い溜息を零した。






9


もっと近くへ











見上げた視界に映るのは、木の葉から差し込む柔らかい光と、どこまでも澄んでいる青い空。




差し込んできた強い光に目を細めながら、起き上がった私は隣に横たわるユズに視線を向ける。静かに眠る相棒の姿に、相変わらずだなと苦笑を零し、再び寝転ぶ。




(……あったかい)





初夏にしては心地よい天候に眠気を感じて目を閉じる。
視界を閉じた瞬間に広がる暗闇の世界と同時に、蘇ってきた鮮明な記憶に頬に熱が上昇するのを感じた。


伸ばした指先に触れた己の唇が、わずかな熱を持っている事実は確かなものだ。



(…なんで、キスしたんだろう?)




脳裏に蘇った翼の真っ赤な顔とその行動は、
無意識に行ったものではない。
意識があってやったものだと推測される。



キスの一つや二つ、変わらない。

そう言ってやりたいのだが、彼の顔を見るたびに胸の奥が軋むのを感じる。



その感情が、何なのか、分かっている。




――理解してるからこそ、受け入れられないのだ。






(…だって、あの翼だよ?)






イタズラ好きだがその反面、とても優しくて傍にいることも嫌いじゃない。

自分より、三つも下の普通の少年。





歳を馬鹿にしてるわけじゃないが、でも受け入れられないのは私だけだろうか?






「…ばーか。」





授業をサボってまでこんなことを考えている私も、一週間近くも何も伝えてこない翼も、こんな感情を抱えている自分も。



「ばーか」





本当、馬鹿だ。










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