見上げた空は青かった。
□10それは、とても些細な出来事
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「木村エミ」
一言で言うと、不思議な人物。
会ったときの感想がそれだった。
性格は、悪くない。容姿も、まずまず中の上ぐらいだし、何より彼女の持つ不思議なオーラは惹かれるような力をもっている、それにふいにみせる大人っぽい表情のギャップに落とされるやつは多々いるだろうと容易に推測できた。
まあ、こんな見解を勝手に立てている自分は
彼女を人間性として捉えてしかいないから、決して恋愛感情は抱くことはないと思っていた。
だからこそ、彼女に好意を抱いていることに気付いたときには正直、ショックだった。
ショック、とはまた違う、自分自身に内心驚いていたのかもしれない。
だって、可笑しいだろ?
まだ出会って間もない人間を好きになるなんて、そんなことありえない。
出会って、話して、惹かれて、お互いを知ってから『恋』は始まるものだと思ってた。
だが、自分の描いていた理想は、決して叶う保障などないのだと、この時俺は痛感した。
10
それは、とても些細な出来事
『私が好きなら、落としてみせてよ?』
エミからの挑戦状を叩きつけられてから、一週間。彼女のファーストキスを奪ってから、ずっと避けていたあの時の自分を振り返ると…情けなくて仕方ない。
己の恥ずかしい過去を振り返っては、自己嫌悪に陥る自分に内心呆れていたが、やはり『恋』という感情は不思議なもので。
あれからの、彼女との関係には進展など無いものの、前よりも近づいたこの距離に嬉しいと感じる自分はとても単純な男なんだろう。
自分の前で、ノートを必死に取ってる想い人を眺めながら翼は頭の中に浮かんだ言葉に苦笑を零しそうになった。
【恋とは、堕ちたほうが負け】
まさに、今の自分はその言葉の通りだ。