見上げた空は青かった。
□11 誘拐事件
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「…健康状態は良好、異常なしですよ。お嬢さん。」
お疲れ様です。
診察を一通り終え、自分に笑いかける医者はカルテをパソコンに打ち込む作業に集中しはじめる。その動作を、見つめていた私は後ろから入ってきた看護師の存在に気付いて慌てて、立ち上がった。
内科検診は、以上で終わりと言うことだろう。
「あ、ありがとうございました」
頭を下げ、邪魔にならないよう診察室から素早く退出した私は、携帯を握り締めながら足を出口とは反対の方に向けた。
今日、検診だったことは己にとって幸運といえば良いのか、それとも不運といったらよいのかは分からない。だが、これから起こる事を、見逃せる立場じゃないということだけは、理解できた。
「…私も、損な性格してるよ。」
苦笑を零しながら、携帯をスカートのポケットに忍ばせる。
主犯がここに足を運ばせるのは、時間の問題だろう。
【蜜柑ちゃんを、お願いね】
昨夜、電話越しから伝えられた言葉に、そういえば明日『レオ』がこの学園にくるという話が盛り上がっていたのを思い出した。
その目的が、棗に変わるということは理解しているが、そこに蜜柑やスミレが巻き込まれるのは目に見えている。例え、私の存在で紙面上の未来が変わったとしても、彼女の行動でそれは代えられないだろう。
それは、理論的な答じゃない、私の直感なのだが。
浮遊感が消え、開いたドアから足を進める。
病室に、ぶら下がる番号から彼の部屋を探し歩いてた私はふと足を止めた。
「…あった」
『301号室』
間違いなく、彼の病室だ。
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