見上げた空は青かった。
□12 質疑応答
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「はい、以上で質問は終わりだよvお疲れの中、ごめんね」
にこり、笑みを零して紙をしまう鳴海を見つめながら、私は小さな笑みを零し頷く。
「はい。少しでも、お役に立てたら良いんですけど…ね」
先日、学園で起こった生徒誘拐事件。
すでに噂が広まっているせいもあるのか、四方八方でそのネタは持ちきりだ。
中には、嘘の情報が散らばっているらしいが。
今回、関わった人間の中でも年長である私が選ばれたのも理解はできる。
『Z』の情報は学園にとっては喉から手がでるぐらい欲しいもののはずだ。
質が高い情報は、確かな根拠がひつようになる。
多少、記憶を誤魔化して答えた部分もあるがどこまで持つかは分からない。
エミは脳裏に蘇った少年の姿を思い出しながら、唇を噛む。
……勘が良い彼のことだ。私の仕掛けにも、すぐに気付くはずだろう。
【学園が表向き『危険能力』なんて銘打ってるあのクラス、実体は目をつけたガキを裏工作員に育てる工作員養成セクションだよ】
ふいに脳内に蘇ったレオの言葉。
洗脳されそうになるその言葉を振り払うように、首を横に振った私はイスから立ち上がる鳴海を見た。
少なからず、レオの意見も分かる。
『危険能力』の生徒達を駒として、学園が行っていることは、どう考えても物悲しさしか残さない。
ここで平和に過ごしている己も、所詮、彼らの心情など全部、理解することはできないのも分かってる。
(…でも)
少なからず、寄り添うことはできるはずだ。
傍にある鏡で自分の姿を確認する鳴海に呆れながらも、胸の中で渦巻く感情に深い溜息を吐いた。この胸にある感情は当分消えぬものだろうと自己完結し、押さえ込む。
「―――あ、そーだ。」
振り返り、私の顔を見ながら発言した鳴海は、ポケットに手を入れ込み、何かを探し始める。
「……何ですか?」
「んー…。渡そう、渡そう思ってたのがあってね。」
何だっけな〜、そう言葉を濁し、ポケットからバックに手を移動させた彼はあった、と表情を緩ませ、取り出す。
その手におさまる物体を視界に入れた私は目を見開き彼に視線を向けた。
「キミの制服のポケットに入ってたやつだよね?個人情報ってのもあるから僕が預かってたんだよ。…まあ、」
案外、興味深かったけど。
私の目を静かに見つめながら、近づいてくる彼の表情は先程とは違い、とても冷たい。
ベッドのテーブルの上にそれを置いた鳴海は私を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…まさか、ここにキミの本当の秘密があるとは思ってなかったから、ビックリしてしまったけど…」
でも、すべてが繋がった。
掌が冷たくなる。胸を打つ心臓の強さに、本能でヤバイと感じた。
鳴海は、いや彼は私の何かを知りたいのだ。
「……残念ですけど、何のことかサッパリ分からないんですが…」
彼の目を見つめ、まだ治ったばかりの喉から声を絞り出す。語尾が震えていることを気付かれぬように言葉を零した。
ズキリ、頭の奥が痛む。
「…しらばっくれても、困るんだよね。…キミは、いやエミちゃんは、あの人の姪なんだね。」
木村孝、昔、僕の先輩だった彼を知っているんだろ?
その言葉と同時に、手元から音楽を流し始める携帯の着信音はほぼ同時だった。
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質疑応答
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