見上げた空は青かった。
□13 先延ばしにしてきた報い
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棗の誘拐事件が無事解決し、蜜柑が退院してから三日後にようやく私も退院することができた。
怪我の治癒が思いのほか、遅れていたのも理由の一つに入るが、何より私の持つもう一つのアリスの存在があまりにも大きかったらしい。
【拒否のアリス】
昔、孝さんが持っていたと言っていたアリス。利点は、蜜柑と同じような効果があるというところだが、欠点はあまりにもリスクが高い。
鳴海先生の話によると、力の使い方次第で、人の命さえも左右できるほどの力があるらしいのだ。
ただでさえ、不安定な時期である私にその力を託すというのは彼も不安なのだろう。
中等部の校長の所で身を預けないかと、言われたときには正直焦ってしまった。
冗談じゃない。
私の人生の半分を彼女に捧げなければならないなんて、語弊があるがあまりにも酷い。
まだまだやりたいことは沢山あるのだ。
狂ってしまった元の世界での時間の代わりをここでを楽しむことさえも、制限されてしまうのは正直言って辛い。
これは、私の最初で最後のわがままと言っても、過言ではないのだから。
鳴海先生との、二日間の口論の末、辿りついた結論は『見守り』という形だった。
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先延ばしにしてきた報い
「…乗れ」
病院の入り口にて迎えられたのは、不満そうな表情で車にもたれかかる岬先生とにこやかな笑みを向ける鳴海先生の姿。
見慣れた二人の姿に内心、安堵しながらも脳裏に蘇った彼、翼の姿がないことに気付く自分を慌てて振り切る。
数日も会ってないことを、寂しく思ってしまうほど、彼の存在はそんなに大きいものだったのかと再確認した自分に驚く。だが、それでも良いかと呟いてしまう己に苦笑が零れた。
「好き…か」
誘拐事件後、まだ病室で療養中だった自分の所に来てくれた彼は以前、自分が好きだと発言をした。
最初は嘘かと思った。だが、馬鹿な己でも分かりやすい行動をする彼を見ている内に、ふとそれを嬉しいと感じてしまう自分に気付いたのは、最近のことだ。
多分、好きなのだろう。
ハッキリと自覚してはいないが、どこか頭の片隅では彼を考えている自分がいる。
あの時、あのような発言をしてしまった自分に今更ながら恥ずかしさを感じたが、何時の間にか抱えていたこの感情は多分、最初で最後のものだろう。
そう確信した私は根拠のないこの問いに、小さく苦笑を零す。
片腕に感じるバッグの重さを感じながら空を見上げた。
【私が好きなら…落としてみせてよ?】
どう転ばぬかも分からないこれからの未来とあまりにも危険な己のアリス。
そして、消えることのない想い。
「…孝さんなら、どうしたのかな?」
消えることのない不安を感じながら、ポツリ、一人呟いた。
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