見上げた空は青かった。

□14 そして時は動き出す
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いつも以上に通気性の良い服を身に纏いながら、引きずられるように歩いて私は目の前に広がった体育館のホールの広さに目を見開く。やるとは思ってはいたが、ここまでヤル気になっていたとは。特力のメンバーの頑張りに内心、驚く。






「……す…す、ごい」



思わず零れ出た感嘆の言葉。



《アラジンと魔法のランプ》を開店させてからも、仲間達は休む暇も無く、忙しそうに動き回ってる。周りを見渡しながら、呆然と立ち尽くしたままの己の背中を襲った衝撃に呻き声を上げた。



「エミせんぱーい!まだお客さんこーへんよっ!」




耳元で相変わらずのテンションで話しかけてくる蜜柑に笑いかけ相槌を打つ。

肩に上ってくる蜜柑を支えながら、視線を動かしていた私は見慣れた背中に視線を止めた。






(……いた)




美咲と二人で話している翼の姿に気付いた私は気付かれないように視線を逸らし息を吐く。



――ズキリ、鋭く突き刺す胸の痛みを振り払うように頭を左右に振った。











14



  そして時は動き出す




















「浮かない顔してどうしたの〜?エミちゃーん」




ぎゅ、蜜柑を覆うように背後から自分を抱きしめてきた存在に気付き振り返る。

レンズ越しから優しく見つめるその瞳を見ながら意地悪い笑みを浮かべている人物を横目でやり口を開く。



「別になんでもないよ。眼鏡こそ、仕事とか終わったの?」




「んー、一通りね。でも、客が来るにはまだ程遠いかもな。ここの場所の位置が悪いのも付け加えてさ」




楽しみにしているチビが意気消沈しなきゃいいんだけど




私から離れて翼の元へ走り寄っていく蜜柑の後姿を眺めながら頷く。


一番、この企画を楽しみにしていたのは特力の中でも蜜柑のはずだ。



――まあ、何を言われてもへこたれないのが蜜柑の持つ強さとは分かっているがここにいる皆も内心、心配なのだろう。




周りの生徒達の対する特力のイメージは限りなく低く評価もそれ同等なはず。そのことをここにいる大部分の人間が分かっているとはいえ、やはり今回の企画は厳しいものもあるのだろう。







「…眼鏡がそんな心配しなくても、大丈夫でしょ。それに、何かあったら私も動く気でいるしさ」




大丈夫、大丈夫




私に抱きついている彼の腕を優しく叩きながら小さく笑って言葉を発する。
一瞬で緊張感を包んでいた二人の空間が柔らかくなったことに安堵する。




中学生とはいえ、所詮は子どもなのだ。

ストレスを溜め込むというものも悪いし、何よりそんな彼らをほっとくということも、今の自分の性格からは不可能に近い。



(……そう偉そうにいっている私も十分、餓鬼だろうけど)





相変わらず私から離れようとしない眼鏡が零した、『やっぱ敵わないよ』の言葉の意味が分からなくてじゃれあうように遊んでいた私は暫くの間、自分を見ていた翼の姿に気付かなかった。









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