見上げた空は青かった。

□18 抱きしめた重み
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―――「エミ…、お前…本当は17歳なのか?」






零されたその言葉が、グルグルと頭の中を回っては、打ち消すことができない事実を己の中に蘇らせる。真剣なその表情と責めるように自分を見つめた翼の瞳が自分の瞼の裏側に焼きついては決して離れない。じわじわと胸の中に広がる痛みとその感情に、ただ蹲り、堪えるしかない自分の弱さに思わず泣きそうになった。



(―――答えたほうが良いのだろうか)



自分がこの世界とは違う住人だということも、彼より三つ年上の人間だということも。



それでも、確かに、翼に対して恋情を抱いていることは変わらないことも。






「―――ワンッ」




耳元で吼えたその声に、ハッと我に返り、閉じたままの瞼を開けたエミは視界に映った白い壁を呆然と見つめる。ゆっくりと脳内が覚醒されたと同時に、頬に流れた雫に気づいたエミは、自分がまた泣いていたことに気づき、思わず深い溜め息が零れた。



「……駄目だなー…。自分」




孝の発言に対しての不安と、翼にばれたと言う恐怖が未だに自分から離れない。その確かな事実に、追い詰められている自分自身の弱さに思わず自己嫌悪に陥りそうになりながらゆっくりと起き上がったと同時に身体に感じた重さに気づいたエミは額に広がる熱さに動きを止めた。


この感覚は、この17年間生きてきた中で、何度も感じたことのある、風邪という症状だろうか。




「――うわ…、最悪」



テスト前ということもあり、今や学園内の教室はテスト勉強に集中している人間が多いため、ぴりぴりとした空気を放っている。それは、順位を上げる他に家族に会えるという特別待遇が与えられる権利を得るために努力をおしまない人間がいるのも含められているのだが。そんな中、自分のような体調不良者が教室に現れたら、反感を買うのは目に見えている。




(――今日は、休もう…)




そう結論付けた私は、平衡感覚が掴めない身体にむちを打ち、ベッドから降りて机の傍にある椅子にゆっくりと腰を下ろす。
丁寧に重ねられた本の中から、紙を抜き出しペンを滑らした私は、折りたたんだその紙を後ろで静かに待機するユズの首輪に結ぶ。ただ静かに自分の傍にいるその存在に安堵を覚えながら、その冷静な表情を見つめた。




「……この手紙、教室にいる先生まで届けてもらっていいかな?美咲も今は試験に集中するために、私より先に教室に入っていると思うしさ…、それに、翼も……」



文化祭の時から私を避けてるし。






零した言葉に、再び、涙腺が刺激を受け涙の膜をはるのを感じた私は慌ててそれを拭う。込み上げてくる嗚咽に、自分の精神が相当参っているのだと気づいたと同時に彼の存在の大きさを再び再確認させられたが、今は泣いているところではない。再び送った視線を受け止めると同時に、ゆっくりと開けたドアの先を歩いていったユズの後姿を見送った私は、開けっ放しの戸を閉めると同時にベッドにある布団へと身を落とした。













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    抱きしめた重み

















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