見上げた空は青かった。

□19 園生かなめ
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世界は広いようで狭い、という言葉があるけれども。その言葉と今の自分の状況はあながち間違っていないのかもしれないと、少女―――エミは思った。


例えば、今、自分がいるこの世界も、元は『本』という類の中として存在した世界であり、その流れを通して己も知ることができた『設定』であり空想だった。
だからこそ、己が知っている知識さえも、所詮、自分が判断することできる材料であるとともに、様々な世界が与えた一部の作品でしかないのだ。


世界が広く感じてしまうのは、まだそこにある魅力を感じることが出来ないから。だが、触れた瞬間に感じてしまうのは、『狭い』という言葉とは違う、繋がりが存在し、無駄がないということを言うのではないのか。



この世界に来て、数ヶ月たった今。


木村エミは現在、存在するこの世界を見つめながら、そう感じてしまうことがあった。







19


  園生かなめ









休憩の時間が差し掛かった今の時刻の中庭のベンチといえば、誰もいない絶好の場所であり、自分にとってお気に入りの場所である。


教室から退散し、翼たちと後で落ち合うことを約束したと同時に、この場所に足を運ぶことは多くはなっていた自分の行動と真意に気づいた三人の表情はとても、分かりやすかったのだけども。




それを追求することはせず、見守ってくれる彼の温かさと二人の友人の優しさに気づいた私は、ポケットにしまい込んだままの携帯を取り出して、滑らかなその表面を撫でた。




その原因は、翼と険悪なムードになった数週間前に自分の正体がバレたことが一番、大きいのだろう。そして、それと同時に、己が連絡を待ち続けているたった一人の家族を知ることになってしまった彼らは、私がその『叔父』と連絡を取るためだけにこの場所に訪れていることに反対を示す意思は見せないが、ただ心配しては気にかけてくれることが多かった。





(―――もう、二ヶ月…だもんね)





叔父である『孝さん』と連絡が取れなくなって、もうそれだけ日にちがたったのだと改めて感じてしまうことも、寂しさが込み上げることも、今も昔も変わらない。それでも、以前とは違う安心さが心を包んでいるのはきっと、もう嘘を吐かなくてもいい人間が傍にいることが一番大きいのかもしれないと、エミは小さく苦笑を零した。





「―――翼…」





心にいるその人の名を零したと同時に自然と頬が熱を帯びて、不思議なほど心が安堵を覚えてしまうのは、きっと、自分が今までもこれからも体験することがない感情といっても可笑しくないもので。再び笑みを浮かべた彼女は、スカートを引っ張る主に気づき、視線を落とした。




「――ユズ…どうしたの?」






先ほど出した名を聞いた瞬間、どこか不服そうな表情を浮かべた相棒は、スカートから口を離し、視線をゆっくりと前に向ける。そんな相棒の視線に誘われるようにゆっくりと視線を前に向けた私はベンチに座り込む少年の姿に、目が見開くのを感じた。




どこかはかなげな雰囲気を持ちつつも、柔らかな笑みを浮かべ彼の足元にいる『ぬいぐるみ』に話しかけ、頼んでいる彼の姿は苦しそうなもので。ゆっくりと向けられた彼の視線とその端整な顔立ちを見ていた私は、頭の中に浮かんだ名前に息を飲み込んだ。





(―――園生かなめ…くん)






ベアの産みの親でもあり、人形創りのアリスを持つ、人がそこにいた。











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