見上げた空は青かった。

□20 アリス紛失事件@
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「―――ここ最近、話題になっている『能力(アリス)紛失事件。皆さんも、気をつけてくださいね。」




では、今日はここまで。



教卓の上にある教材を揃えた教師が零した言葉と同時に立ち去る生徒の波を眺めていた私は頭を優しく叩いた感触に我に返る。ゆっくりと振り返ると同時に、視界に映ったのはニット帽を被ったまま、欠伸を零す翼の姿で。行こうぜ、と声をかけた彼の言葉を聞きながら、頷いた私は腰を上げた。







20 アリス紛失事件@




















☆☆☆☆☆☆☆☆☆






「――うわ、何だこの部屋っ…」





特力の教室のドアの先、視界を漂う煙のにおいに鼻を啜った私は懐かしいその感覚に目を見開く。




――煙草、だ。




「おー、翼ー。きたかー。」




皆、元気そうじゃなーか。そう呟き口角を上げた彼を見下ろしながら、頬を引きつらせる翼の背後は何故か、黒いオーラが漂っていて。へ、と目を丸めた私は蜜柑を膝に乗せた人物の姿に瞠目した。





(――殿内、先輩……?)




翼とすれ違った時期に、告白した彼の姿を見るのは随分と久しぶりのことで。あれから、一ヶ月程たったんだな、と思考の合間で考えていた己の視線に気づき、嬉しそうに笑った殿内は腕を上げた。





「――エミ、久しぶり。元気だったか?」



「――あ……、はい。元気でしたよ?」




きっと、次に会うときは、避けてしまうと思っていたというのに。意外にも普通に接する殿内の様子に、緊張していたのか、強張っていた身体が力を抜くのを感じた。




(――やっぱ、同い年だけど…大人だよなあ)




さすがは、特力代表と選ばれているからだろうか。それも、あるのだろうけども、一番適切な表現としては、彼の人間性がそうさせているのも当てはまるのではないのだろうか。





「――エミ、ちょっと、こっちに来い。」




翼の発言に促され、渋々蜜柑を下ろしていた彼が呼んだのは自分で。仕方なく歩みを進めていた己の身体は、突如現れた引力により進む方向へとは逆方向の引っ張られた。



「――うぉっ!?」




女子ならぬ声を上げた己の身体は誰かの腕に支えられていて。ゆっくりと体に巻きつく腕の感覚に我に返ったとともにつむじに顎を置かれ、抱きしめられている体勢であると気づいた自分の頭に過ぎったのは一人の人物。




「――おい、おっさん。エミは、駄目だぞ。――抱きしめていいのは、俺だけの特権だし?」




クスリ、と。頭上で小さく笑う翼の行動に思わず頬が熱帯びてしまったのは仕方がないことで。普段は、こんなことをしないくせに、誰か、好意を持っていると分かった瞬間、独占欲を垣間見せる翼の一面。その一面が自分は弱いということをこのへたれ男は分かっているのだろうか。





(――分かっていて…やってるんだろうなあ…)







敵わない、そんな言葉を小さく心の中で呟いた私は、抱きしめる翼の腕の中でその瞬間だけ、静かに其処にいた。






そんな私と翼の姿に蜜柑が美咲に詰め寄っていたとしるのは、後の話。




















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