見上げた空は青かった。

□21 アリス紛失事件A
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“初等部の女の子が、一人、侵入者に撃たれて重症だって”







「――え…?」




零された言葉に、表情を強張らせた特力のメンバーが反応できるのは、その言葉に対する問い返しだけで。珍しく足元に存在するユズの存在を感じながら、驚きから目を軽く見開いていた私は、これから来るであろう未来に唇を噛み締めた。










21  アリス紛失事件 A










「みーかーん」




関節を鳴らしながら、眉間にしわを寄せ、蜜柑を見下ろす翼の表情は怒りの色に染まっていて。
いつもの陽気な表情ではない先輩の姿に目を丸めた蜜柑の身体を固定した翼の拳は彼女の頭に当たった。




―――瞬間。





「ギャー―――ッ!!翼先輩ッいたいいたいッ!!!」





蜜柑の口から零れたのは悲鳴。そして、翼から繰り出されるぐりぐり攻撃に手足をばたばたと動かしながら、痛みから逃げるかのよう身体を捻った。








「――お前ってやつは―……、チビのくせに何ムチャぶっかましてんだ。コラ―――ッ!!

お父さん←?のゆうこと←?きかない奴はおしおきだッ。オラ―――ッ!」








普段、怒ることのない人間が怒ると、ものすごく怖いという話を聞くが、蜜柑の場合、今まさに、翼がその状態なのだろう。





その光景を殿内の隣の席で眺めながら、小さく笑った私の隣で、口角を上げ、微笑んだ彼は言葉を零す。





「――翼が『お父さん』ってことは、俺は『お兄さん』か――」






(―――いやいや、何言ってるの?この人…)





心の中でツッコミを入れた己の隣で紅茶のポットを持った美咲が呆れた表情を浮かべながら、『あんた、ばか?』と言葉を零した。





うん。美咲。私も同じ意見です。






「――あの…それよりも、蜜柑ちゃん、さっき、謹慎するために寮に連れて行くように言われてませんでしたか…?」





不安げな表情で、翼と蜜柑のやり取りを見ながら、殿内に意見するのは委員長こと飛田裕で。その問いに紅茶を喉に流した殿内は言葉を返す。




「――まあ、そこは・・・臨機応変。誰かに見張られているわけでもないし、謹慎したらイヤでも『独り』が続くんだし、今の内に人に『会い溜めしとくのもいーだろ。




まあ、それに、



こいつらチビちゃん連れて来いってうるさくてさ――」






「うっせーなーー。おっさん。黙ってろよ。」




殿内の発言に言い返した翼の表情は苛立ちをまだ抱えていて。そんな彼の発言に、椅子から飛び出た殿内は彼に飛び掛った。


発言の言い方を訂正する彼らのやり取りを見ながら、蜜柑にココアを渡す美咲の隣に行った私は涙目でココアを飲む蜜柑の頭を優しく撫でる。




「――本当、無事でよかった…。」




視線を合わせるために屈みこみ、蜜柑に向かって小さく笑った己を見つめながら、再び唇を噛み締める姿は泣くことを我慢しているようで。その表情に苦笑を浮かべながら、立った私は、『この馬鹿。』と小さく呟き、頭を小突いた。




本当、無鉄砲な子だ。





「――エミ先輩。」




「ん?」




呼ばれた自分の名前に振り返った私を見つめる蜜柑の瞳はまだ泣きそうなほど潤っていて。そんな蜜柑を見たまま、黙っていた私は、ゆっくりと口を開く彼女を見つめた。




「――心配かけて、ごめんなさい。」





――この子がこの一言を言うだけで、どれほどの勇気を出しただろうか。

きっと、心配してくれているみんなの気持ちを素直に感じ取れる子だから、言葉に出すのはそれほど苦ではなかったのかもしれないけども。

翼やメガネ、美咲や皆にも言ったであろう言葉を己にも言ってくれるからには、自分のこの気持ちは少しでも伝わっただろうか。


震える唇で言葉を零す蜜柑を見つめながら、小さく笑った私は彼女の頭を優しく撫でる。
よしよし、と呟きながら、彼女の頭を撫で続けていた私は、続けられる会話を聞くために立ち上がった。










「――『Z』かぁ―――。子供にウイルス入り銃を使うなんて、何考えてんだ。能力盗みといい、何なんだよ。あいつら――。」



「――奴らが独自に開発したウイルスなら、こっちで特効薬を作るのはかなり時間がかかるだろうな。…となると、奴ら(『Z』)からその情報を奪うしかないな。」










呟く殿内の言葉を聞きながら、口を開いた翼は言葉を紡ぐ。








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