見上げた空は青かった。

□プロローグ
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暗い、闇。
上も下も、空間の境さえ判らぬ世界に自分はただぽつりといた。


最初からそこに在ったように、ただ、静かに在る自分。周りを見渡すために立ち上がった瞬間、冷たい地面の感覚が裸足を襲った。





「……ここどこ?」


口から零れた言葉は自然と空間に響いたが、返事を返すものは誰もいない。
ぐるり、再び身体を反らし周りを見渡す。ふと、視界に写る暗闇の世界で眩しいほどの小さな光が眼を刺激した。




淡い、小さな光。
自然と伸ばした掌の奥でも、消えぬその光に目を閉じた瞬間、誰かが呟いた声が脳裏に響いた。








プロローグ







「エミちゃんー、起きないと遅刻するよ!」



下から聞こえてきた怒声に、ベッドで転寝をしていた少女―、木村エミは勢いをつけてベッドから起き上がった。すでに、開けられた状態のカーテンから入り込む朝特有の光の眩しさに目を細める。




「今、何時…?」





まだ、正常に動かない頭を必死にうごかしながら机に置いてある時計に目を向ける。

――次の瞬間、朝一番の彼女の悲鳴が家中に響き渡った。









――――――――――――






「孝さん!何で起こしてくれなかったの!?」


「僕、起こしたのにエミちゃん、起きなかったんでしょ?あ、はい、お弁当。」



エミの父親代わりであり、家族でもある孝に文句を言いながらも慌ててローファーを履く。玄関で渡された弁当包みを小脇に抱えて、立っている彼を見上げた。



「じゃあ、行ってくる!今日、バイトあるから遅くなるね!あ、また、いるものがあったらメール送ってよ。」

「……はいはい、分かったよ。エミちゃん。君こそ、気をつけて行って来ておいで。」



いつもの、柔らかい笑みを見せて手を振る孝にエミも小さく手を振って家を出た。荷物を自転車の籠に入れて、乗り上げると同時に視界の端に写った黒い影に気づき小さく息を吐く。




(分かってはいるけどさ)




相棒でもあり我が家の愛犬であるユズ
は、いつもこのような行動をとり自分を見送る。近所ではすでに有名になっている光景だからすでに諦めてはいるのだけども。





「本当、賢いよね。キミってさ」



小さく苦笑した私の呟いた言葉に一瞬、反応した様子を見せたが、目も向けず歩き出す。その愛想のない行動にこの子らしいと再び笑みを零した私も足を進める。




――瞬時、突然、視界を覆った強い光と浮遊感を感じた途端、同時に意識は暗闇の世界に暗転した。











 

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