君はトランキライザー

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『―――エミちゃんは、基礎体力を多めにつけた方が良いと思うんだ。
何せ、キミは女の子なんだから体力的にも限界があるからね?』


そう言葉を溢したアキナさんは、肩まである金髪を一つに結い、私を見つめた。優しい表情を浮かべると思わず女性が倒れるであろう整った顔立ちを持つ師を見上げていた私は、次の間、溢された言葉に思わずムンクの叫びとなってしまう。

ミズケンさんが住む山を一日で100周すること、それをクリアしたら五十キロの重りを着けて500メートルの崖登りを一日すること、筋トレは3000回当たり前。…剣術、体術、等もろもろ要求した彼は、私をこの一年間、このプロセスでやり繰りさせたのだ。勿論、この一年、生きるしかばねとなっていた私は、彼の与えられた期間を何とかクリアしたのだから褒めてほしい…。
――365日。1年って本当に長いんですね。




そうして基礎体力を嫌というほど叩き込まれた私は、己の師である彼の本質に一つの答えをだした。


アキナさんは、本当に良い人で優しいけども、へたれなんかじゃない。
ヘタレ鬼畜だ、きっと。



「――エミちゃん、今、失礼なことを考えてなかったかい?」
「――気のせいですよ。アキナさん。それで、今日は何をやるんですか?」


――近くの川へと連れてこられた私は数メートル先に居る師を見つめながら、言葉を溢す。――無言となったアキナさんを見ていた私は、次の間、肌を覆う鋭い空気に目を見開いた。

(―――これって…もしかして…)

「ふーん。エミちゃん。僕が何か違うって分かるのかい…?」
「……そんな威圧感だしていたら、分かりますよ。…それが、『念』ですか。アキナさん。」


ゴン達が、ウイングさんから学んでいたものだったと。思い出していた私の顔を見下ろし、頷いたアキナさんは口を開く。


「念とは、自らの肉体の精孔(しょうこう)という部分からあふれ出る、「オーラ」とよばれる生命エネルギーを、自在に操る能力のことを言う。

―――キミがハンターになるためには、得ていても申し分ない力だからね…」


ゆっくりと歩きだしたアキナさんは、地面に転がった小枝を手にする。

「――僕は、今からキミに念を教える。この修行が終わったら、キミは僕と二年ほどこの世界に旅立ってエミちゃんを鍛え上げるつもりだ。」


――振りかえったアキナさんは、髪と同じ色を宿すその瞳を細める。頬をかすった鋭い風に目を見開いた私は、背後の木に刺さる小枝に口元を引きつらせた。
このヘタレ鬼畜は、本気で私を殺すつもりだ…。

「―――はい。…がんばります。」


思わず泣きごとを溢しそうになった私を見つめ、笑ったアキナさんの笑顔はやはりイケメンの部類に入っていて。小さく息を吐いた私は、彼を見つめたまま奥歯を噛みしめた。
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