君はトランキライザー

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―――両親と会うのは九年振りとなる。六の頃、アキナさんのもとについて修行を始めた私がこの島に戻ってくるのは大いに時間を得てしまったけども。降ろされた船から離れ、アキナさんと民宿に向かっていた私は、隣で歩く師を見上げる。

「――そういえば、アキナさん。」
「?…何だい?」
「―――父さんが、殴りかかるかもしれませんので注意してくださいね。」

散々、私が彼の元に嫁に行くと勘違いした父親のことだ。二人で帰ってきたら、きっと結婚の約束を伝えるという変な妄想を抱いているかもしれない。
アキナさんが許してくれた手紙の中にも、父からの手紙はそれだけしか綴られていなかったのだから。

海辺から歩いて数分。見えてきた民宿に眼を細めていた私は、営業を開始するのか、外で掃除をしている一人の女性に眼を見開いた。
栗色の髪は、ボブのような長さにしているがあの頃と雰囲気は変わっていなくて。
近づく私たち二人の気配に気づいたのか、振り返った女性は元気よく挨拶した後、驚きの表情を顔に張りつかせた。
砂を摩擦する靴底の感覚を感じながら歩みを進めた私は立ちつくす生みの母親――ユリカさんを見つめた。

「――お母さん。ただいま。」

その言葉に、ぽろぽろと涙を流したこの世界の母親の表情は本当に嬉しそうで。素早いスピードで抱き付いた彼女の衝撃を受け止めながら、抱きしめ返した私は『おかえり』と声を発する母の声に笑みを浮かべ頷いた。








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