君はトランキライザー

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時間というものは、多く与えられているようで意外にも短いものだ。
九年振りに帰ってきた故郷でアキナさんから思いもないカミングアウトを受けた私は、残ってもよいと言われた師の言葉を無視し、再びこの土地を離れた。ゴンから伝えられた二年という時間を過ごすため、各地を回り始めた師匠――アキナさんと共に旅を始めた私は、様々な土地を知る彼の豊富な知識と頭脳に感服の息を吐いてしまったけども。
言っておくが、彼の告白は断ったうえで私は付き人として旅を続けている。
その理由は、この世界の知識を多く備えることが多くの理由であるが、何より彼――アキナさんを一人にするのは何故か不安だったからだ。
このヘタレ鬼畜は、他人を優先する優しさを持つとともに、自分のことを後回しにする自己犠牲のような性質を持っている。それは、今まで教えられてきた自分と彼の付き合いからも感じ取っていたものでもあるし、彼の同期であるミズケンさんが私に言っていたためでもあるが。


――二年という時間。その与えられた時間の中で十五程の国を回った私は、色んな事を学ぶことができた。それはその国が持つ、文化だったり、人々の様子だったり、料理だったり、国の成り立ちだったり。――アキナさんの行動は相変わらずだったけどもそれでも彼との時間はどこか居心地が良かったのは、気付かないままだったけども。


第287期ハンター試験、二年前ゴンと約束した私が受ける試験である。師であるアキナさんは私が試験を受けるためにハンター協会へと紹介状を出してくれたらしい。試験開始、一週間前となり旅立つ準備を始めた己を見る彼の瞳はどこか不安げだったけども。
それでも決して止めようとしない彼は、私が試験へと向かうための準備を一緒にしてくれた。――無意識だったのだろうか、準備の際、私の下着さえも触ろうとするアキナさんの顔は真っ赤に染まっていて、思わず笑ってしまったのは事実だったけども。
そうして、二年時を経て17という年齢になった私を見送るため、一緒に船場へとついて来てくれた彼はまだ三十分程ある時間を過ごすため、近くのベンチへと腰を降ろしていた。
――何というか、相変わらず優しくて、温かくて、不器用な人だなとわが師を見ながら思ってしまうけども。

「――エミ、良いかい。試験の時は変な人に物を貰ったり、ついて行ったりしないんだよ。」
「――分かってますよ。でも、アキナさんは私をつれて言った人なので、あまり言えませんよね。」







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