君はトランキライザー

□.暗闇の中にみた暖かい光
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――人との争いはあまりにも情けなくて、酷く愚かな行為だ。
ハンターとして存在する自分はその戦いに関係ないという考えに至っていたのが、誤っていたのか。武器を手にする争いを横目に立ち去ろうとした自分を敵と見なしたのか、腹部を切り裂いた村人の攻撃を受けながら、俺は彼らが抱く嫌悪と憎しみを浮かべた表情に思わず眼が見開くのを感じた。

『――俺は、貴方のこと、一度も師と思ったことはありませんから。』

ただ一人。誰にも言えなかった彼の存在が俺を見つめ、笑った顔を何故か思い出してしまった俺は、再び湧き上がる罪の重さに息を落とした。

二つ星ハンター。それは、プロハンターの中でまず一ツ星を取得し、その後上官職となり教導した後輩ハンターが一ツ星を獲得したハンターに贈られる称号。ハンターライセンスに星マークが2つ刻まれる栄誉あるものだ。己の元でたった一年という短い年月でハンターとしての素質を十分に得た元弟子は、天才という枠組みに入ってしまうほど、才能を多く持っていた。
教え子とは己にとって家族みたいな存在であり、同じ仕事仲間でもある。たった一人、捨て子として生きてきた彼を向かい入れて育てた己の実力を評価した協専ハンターの通知は己にとっては嬉しさを与えるものだった。

――元弟子はある地域で捨てられた子だった。赤髪と漆黒の黒の瞳を所持する彼は、その気味の悪い容姿から親から捨てられたらしく、初めて彼と出会った時のあの瞳は今でも思い出せる。
深い闇の中にある、憎しみ、嫉妬、怒り、そして人と言う存在を消し去ろうとする殺意を抱く彼は十五という年でその精神を刻み込まれていたのである。ハンターとして一つ星を得て活躍していた、そんな彼は拾った己を見上げ、一言――スレムと名乗った。
――それは、冷たい空気が肌を覆う十七の秋の頃だった。









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