君はトランキライザー

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――料理とは言わば創作の一種といっても過言ではないと思う。
自分が看護師という職について働いていた頃も一人で作っていたし、この世界に生まれ変わっても尚、料理を作っていたのだから腕には自信がある方だ。
とはいえ、素人とプロの料理を比べたら、――それは天と地の差ともいえる。
経験から与えられるものなど、何者も逆らえないのだから。


「―――ということで、クラピカ…。この試験…無意味と思うのは駄目ですか?」

「いきなり私に話を振ってきたな。エミ……。先ほどから、ぼーっとしているけど大丈夫か?」

「はい。大丈夫です。」

だって、寿司を作れって言ったのよ。メンチさんって試験官は。
――クラピカなんてレベルがレオリオと同じぐらいって言われてショックを受けてたのに、開き直ったのかまた寿司を握ろうとしているし…。
豚を丸焼きにする試験が終わってから開始されたメンチと名乗った女性の試験内容は、あまりにも理不尽なものだった。―――回りを見渡すと皆苦戦している様だ。

そんなこんなで、クラピカさんの寿司を横目で見ていた私の知らぬ間で試験を取り止めようとする受験者の表情は酷く歪んでいたけども。――天から追い下りてきた高齢のおじいさんことネテロ会長のお言葉によって試験は再び開始となった。
―――その場所とは、ビスカ森林公園にある山で、名前の通り真ん中で真っ二つに割れており間を河が流れている。渓谷に住むクモワシの卵を取るというものだ。


谷底へ降りていく受験者の行動に神経が異なるであろう彼らを見ながら、すごいなあと感心していた私は一人残っている私の姿に不思議そうな表情をするメンチさんの視線を感じるのを覚え、小さく苦笑を浮かべた。―――どうやら、私以外は谷底に落ちていったようだ。

足元から覚えた浮遊感を感じながら、糸の上に着地した私は奇跡的に残っている卵に手にし、ゆっくりと地面へと着地する。瞬間、目の前に下りてきた銀髪の少年に眼を見開いた。――どうやら彼と同じタイミングだったらしい。


「――あ、エミじゃんッ。――取ってきたの?」
「あ、うん。何とか…ね」
「何言ってるんだよ〜…余裕な顔している癖にさ。」

おいおい。私のどこが余裕なんだい、キルアくん。谷底に落ちるのって結構勇気がいるんだよ?――とはいえ、念を所持している私が偉そうに言えるわけでもないが。

―――ゴン達と無事に卵を熱湯で茹でることができた私は、頭上に現れた飛行船に小さく息を吐いた。――どうやら、次の試験会場に着くまでの安らぎの時間を与えられたらしい。――嬉しそうに話すゴンとキルアを見ながら、私は、ひとまずシャワーを浴びようと心に誓ったのである。














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