君はトランキライザー

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試しの門を開ける為、ゼブロさん達の看守の家で過ごすことになった私達が過ごし始めて十日程が経過した。


―――重りを身体をつけたまま日常生活を送る私の動きは普段と変わらないもので。
まるで化物だと言わんばかりの視線を浴びてきたレオリオに苦笑いを浮かべ、再び洗濯物を干していた私は背後に感じた気配に振り返った。


「―――クラピカ。家の掃除…終わったの?」

「――ああ、後は洗濯物だけ…みたいだな。私も手伝うよ。」


相変わらずの紳士的なクラピカの発言にありがとうと頭を下げた私は、大量に山盛りされた洗濯物籠からシーツを取りだす。
洗濯物を干すときは、皺を伸ばすことが肝心だ。


「―――なあ、エミ…」
「ん?どうしたの、クラピカ…」


何か洗濯物の中に汚れが落ちていない物でもあっただろうか。そう考えながら、隣でシーツを干す彼を横目で見た私は口を開くクラピカの横顔を見つめる。



「―――ずっと…気になっていたのだが、試しの門を開けたというのに…何故、私たちと一緒にいるんだ?」



――――クラピカの言葉に、推測していた質問が与えられたと考えていた私は、唇を緩めたまま、声を落とす。
―――さすがアキナさんの教えと言ったらよいのか、2の扉まで開いた私の力に顎が外れるんじゃないかと思うほど驚いた顔をしていたレオリオとゴンとは反対に冷静なクラピカのことだ。
―――きっと、根拠を探していた筈だ。



「―――皆と同じだよ。キルアと会いたかった。ただそれだけ。―――後、師匠が私に会いに来るって言ってたから…移動できないのが確かなんだけど…」
「―――師匠って…アキナとかいう…人のことか?」
「うん。」




予定としたら、今日、私がいる場所の下町に来ると言っていた筈なのだが。
そんな私の言葉に目を丸めていたクラピカは小さく笑みを零した。
―――心から零した彼の笑み。



「―――そういえば…、エミとアキナ師範はどうして知り合ったんだ…?ずっと…気になっていたんだが、中々聞き出せなくてな…」



もし良かったら聞かせてくれないか?そう声を落としたクラピカの言葉に頷いた私は、既に無くなっている洗濯物籠を手にしたまま、木陰を指差した。

―――きっと、彼との出会いは長い長い話となってしまうから。







―――――――――――――――





*クラピカ視点





木々の間から零れ落ちる光と青空はこの場所が殺し屋のアジトというのを感じさせないほど、穏やかで。
根元に腰を下ろした私は、隣に座るエミを見ながら、口を開いた。


「―――エミのご両親は健在か…?」
「うん。元気にしているよ。私さ、小さな島で民宿を営んでいる両親の間に生まれたの。」


―――温かくて優しくて…愛情深い人。


穏やかに声を発する彼女の出生に驚きから目を見開いた私は純粋な好奇心を抱いた。
平凡な生活を送りながら、ハンターという危険な仕事を目指そうとしたのか。



「―――私は一人っ子だったから、いつも両親のために家のことを手伝っててね。ある日、夕食を得る為魚釣りをしていたら……竿の先に男の人が引っかかったの。」



それが私とアキナさんの出会い。六つの頃だったよ。



優しい風が己の金髪を揺らした瞬間、見えた彼女の瞳は優しい光を宿していて。
私を見つめ苦笑を浮かべたエミは口を開く。



「―――アキナ師範ってば傷だらけでさ…、慌てて私が応急処置したから助かったんだ。
――普通の優しい人だった。不器用で、温厚で、人に甘くて優しくて…、不思議な人だな…って思ってた私に対して彼は言ったの。」





―――――――自分はハンターだって。




――ハンター。その言葉に思わず目が目が見開くのを感じた私は、彼女の笑みを見たまま、口元から息を吐いた。
―――ということは、彼女は…ハンターである師から育てられたのだ。
だからこそ、己たちとの能力の差がこんなにもあいていたのだ。



「―――エミは、―――アキナという者から育てられていたのか。」
「――そうだよ。まだ六つだって言うのに、無理やり連れていかれて死ぬほど修業を与えられたんだ。……まあ、そのおかげで…生きてこれたんだけど…」




けれども、そう呟いた彼女の横顔を見ていた私は先ほどから感じていた彼女の表情の答えに気づき、小さく笑みを零した。
―――だから彼女は…、



「――ねえ、クラピカ。」
「ん?何だ、エミ…」



静かに零された彼女の発言に視線を向けた己の視界に入ったのは、手紙を差し出す彼女の姿で。
首を傾げながら受け取った私の行動に、ラブレターじゃないからね。と声を発した彼女の言葉に頷いた私は柔らかく微笑む彼女の笑みに深緑色の瞳を細め、唇を緩めた。



「―――これは何だ……?」
「……キルアと出会った後にでも開けたらいいよ。」



―――私からのプレゼント。
そう声を発した彼女の言葉に首を傾げてしまった私はいつもと同じ真っ直ぐな瞳に静かに頷いた。







―――彼女から与えられた連作先。
それが裏試験である念を習得するための人物の居場所が書かれていることなど、この時の私はまだ知らない。













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