君はトランキライザー

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―――僕は、愛しているんだ。



脳裏の中で、苦しそうに切なそうに呟いたアキナさんの顔を思い出しながら、私は溢れそうになる感情に唇を噛みしめた。


―――愛しているだなんて。
ヘタレの癖に、何キザなセリフを言っているんだ。



「―――何で…ですか。アキナさん」



月光が降り注ぐ森の中、幹の根に腰を下ろしていた私は握りしめていた携帯を見下ろした。











―――最後にアキナさんと会った日。
口移しで即効性の睡眠薬を飲まされ、目が覚めた私の前には誰もいない部屋と机の上に置かれた手紙が置かれていた。
―――二度も生まれ変わった世界で、出会った彼は私をハンターとして育てながら、何時しか一人の人間として好意を寄せていてくれた。




第二次試験の時、メンチさんが言った言葉が蘇るのを感じていた私は携帯の画面に映るアキナさんの不器用に作った笑顔に目を落としたまま、口を開く。




「―――弟子…を殺したか…」




私の前から姿を消し、連絡さえも取れない彼の不可解な行動。―――それがもし、彼の過去が関係しているのなら…きっとそれは簡単には踏み越えられないものだ。



分かっているのだ。
―――弟子と師の関係ならば、何もせずに放っておけばいいことを。
でも、彼と別れた時から感じる己の感情は彼との関係性を無視するほどの大きなものなのだ。



「―――、一人で過ごすなんて…寂しいじゃないですか。」



―――不器用で、酷く優しくて、温かいアキナさんの笑顔をもう一度見たい…なんて言ったら可笑しいだろうか。



アキナさんを思い出す度、溢れ出す感情の答えを出せないままの私は緊張が高ぶっていたからだろうか、朝日が視界に入るのを捉えながら、立ち上がった。





試しの門で特訓を始めて20日。―――昨日扉を開ける事ができた三人は朝が来たら、キルアの居る屋敷へと向かうはずだろう。
そう考え、傍にある荷物を背負った私は、監守が住む家へと向かった。








―――――――――――――――




長い間お世話になったゼブロさんたちに礼を述べ、屋敷へと向かっていた私たちの前に現れたのは一人の少女の姿。
冷静な表情でそこに立つ彼女を見ていた私は、高ぶった緊張を抑える為、息を吐いた。



(―――この子は執事見習いの…)


「―――キミ…誰?」

「……」



ゴンの言葉に反応を返さない彼女の瞳は先ほどと変わらな温度を宿していて。
その様子を冷静に捉えていた私は、隣で明るい声音で声を発するゴンの言葉に耳を傾けた。


「――オレ、ゴン。キルアに会いに来たんだ。後ろの三人は、レオリオとクラピカ、エミだよ。…オレ達、この先の屋敷に「帰りなさい」」


感情を含まない彼女の声と言葉に動揺したのは、ゴンだけじゃなかったらしく。明らかに表情の色を変えたレオリオとクラピカを見ていた私は、彼女の方へ視線を戻した。


「――貴方達が、居る場所は私有地よ。断りなく立ち入ることはできないの。」


――――何ともまあ、手厳しい世界だ。
この家族の生きる環境はこんなにも厳しいものなのだと考えていた私は、隣に立つレオリオが怪訝そうな表情を浮かべながら、口を開いた瞬間を見つめた。


「――おい。こっちは名前聞いてんだぜ?答えるもんが、礼儀ってもんだろ。」

「――私は貴方達の名前を聞こうと思わない。」



(―――わお。厳しいなあ…)



冷たい声と言葉。そんな彼女の反応に怒りを覚えたのか、歩み寄っていくレオリオを素早く押さえたクラピカの行動は適切で。落ち着けるように、レオリオの背中を優しく叩いていた私は、再び聞こえた少女の冷静な忠告の言葉に眉根を寄せた。
一筋縄ではいかないそうだ。



―――線を越えてはいけない。
その彼女の言葉を無視し、足を踏み入れようとしたゴンの行動はステッキによって吹き飛ばされてしまう。頬を赤く染めていた彼女の攻撃技を見ていた私は、唇を噛みしめた。




(―――でも、この道は…ゴンじゃないと、進めない筈だ…)




―――彼の強い意志は力で排除しても簡単には折れないという事を。
殴られ続けている彼の姿を、信じて見つめているクラピカとレオリオの表情は自分への憤慨と情けなさを感じているようなもので。
何度殴られ続けたのだろうか。
動揺を表情に浮かべた彼女――カナリアは口を開いた。




「―――もう…やめてよ…。もう来ないでよ…」



初めて彼女が零した声は動揺と悲しみの色を含んでいて。それでも尚、近づいていくゴンの顔を見ていた彼女は言葉を続ける。









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