君はトランキライザー

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―――人間という存在はこの世に生まれおちた瞬間から少なからず個性というものをその身に宿していると思う。
人格が形成されるのは、家族構成も生まれ育った環境も、出会った人々も…関与していると思うのだ。
――つまり、私、エミ・ソリアは彼を見ながら考えた一つの推測を捉えた。



―――この大量の箱買いも、浪費癖も、彼が生きてきた環境が関係していると思うのだ。



「―――だから、キルア。…私の作ったご飯を食べるんじゃなくて、部屋にある大量のお菓子を食べなさい。」
「――ひっで〜ッ、エミ。育ち盛りの俺にそんなこというか〜?」
「――そうだよ、お菓子はお菓子。ご飯はご飯だよね。キルア」
「そうだよな〜ッ、ゴン」
「……」



――――天空闘技場、キルアとゴンに着いてきた私の目的はお金を貯めることと鍛練、そしてアキナさんの情報を得る為である。
勝ち進んだ私は現在、150階にいる。
勿論、お金は多く貯まっているのだが、自己鍛錬は欠かせないため、部屋で主に念の訓練を行っている。習慣的になっている料理も私がアキナさんと旅を続けている時と変わらない夕食時間に取っていたのだが。そんな私の行動を知ったと同時に必ず来る二人は、大量に買い占めていた食品を無くほど…沢山食べているのだ。


お金があるから良いのだが…、堪らない。
今度、おつかいを頼んだ方が良いだろうか。

「―――で、キルア達は今…何階にいるの?」




―――私の知らない所でウイングさんと会った彼らは【念】の正体を突き止める為、必死に戦闘を繰り返している。
――明日にでも、また闘おうかと呑気に考えていた私は、彼らの現在の状況を把握するため、問いかけたのだ。



「ん〜…。明日190階をクリアする予定だよ」
「―――だね。」



―――にっこり。顔を見合わせて笑顔を見せる二人の表情と言葉に思わず箸が転げ落ちるのを感じた私は、頬を引きつらせた。


―――マ・ジ・で・か。



「――…明日…だったよね」
「――おうッ。エミは…まだ当分先だろ?頑張れよな〜…」


―――現在の時刻は、午後九時。登録は、まだ可能であろう。
念に対して未熟な彼らのことだ。
きっと、無茶するのは分かっているから。



「―――ちょっと…私、散歩…行ってくるね」


明日は150階から200階まで行けるように、登録する必要がある。そう考えた私は、大量に用意した夕飯を食べる二人を部屋に後にし、受付へと歩みを進めた。








この場所に来て、六日ほど経ったけども。
―――己の我が師の行方は分からないままで。
電脳ページで調べても、彼の足跡が掴めないのが難点だった。




受付で明日の戦闘を登録ができ、安堵から息を吐いた私はバックを背負いながら廊下へと足を進めていて。瞬間――視界に入った二人の存在に目を見開いた私は、瞳を細めた。



(――――あの人は…)



「―――あ、ゴンとキルアさんの友人のお方じゃないですかッ!」



私の姿に、覚えがあるのか声を上げたのはズシだけらしく。隣にいる眼鏡をかけた男性が、柔らかな笑みを浮かべながら黒の眼を己に向けた瞬間――感じ取った彼の感情に眉根が寄る感覚を覚えた。

―――彼は、分かっているんだろう。
私が念を身につけていることを。

「―――初めまして、ウイングと申します。―――エミ・ソリアさんでしたよね…」




―――少しお話を伺ってもいいですか?
そんな問いかけを私に向けたウイングの穏やかな笑みを静かに見据えた。














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