君はトランキライザー

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「―――まったく…あの子たちは…ッ」



ただ今、エミ・ソリアは闘いを終え、エレベーターの前で滞在中である。
色んな格闘家が集まるこの場所の試合数は多いために、闘う時間が急に訪れることもない。
ということは、私とゴン達は同じ時間に終わらないことは確かだったのだ。
長く響いた前の試合の選手の後で素早くカタをつけた私の平手打ちに審判者の顔は酷く青ざめていたけども。
漸く解放され、200階へと登るエレベータを待っていた私は、隣に立った人物に視線を向けたまま、固まってしまった。


「―――ウイング…さん」
「試合お疲れさまでした。エミさん。――先ほどズシからゴンくん達が200階へと上がったと聞きましてね…、止めなかったんですか?」
「――――すみません…。気づいたら居なくなってたんですよ…」




見張っていたのだが、すばやいあの子たちのことだから、すぐに姿は見せなくなっていて。
ウイングさんが眼を光らせていたのを自分は知っていたというのに。見張りが十分でない己の行動に自己反省をしていた私の心情が分かったのか、苦笑を零した彼は、私へのフォローの言葉を零したまま、頭を下げた。
そんな彼の行為に、自分が女性として扱っているのを感じた私は、頬を緩めたまま、内心で叫んだ。

さすが、ウイングさん。
優男だねッ!
おばさん…じゃなかった、お姉さん、すきだよッ!






―――――――――――




―――エレベータから降りた私とウイングさんは、廊下へと続く中、二人が念を浴びている姿を捉えていて。
奥に座り込んだまま、念を放っているヒソカの姿を捉えた私は纏を身体に纏ったまま、歩みを進めた。
この奇術師は、きっとゴンとキルアに異常なほど執着心を持っていると思う。




「――無理はやめなさいッ!彼の念に対してキミたちはあまりにも無防備だ。

極寒の地で全裸で凍えながら、何故辛いのか分かっていないようなもの。
これ以上、心身に負担をかけると、死にかねないよ。」

ウイングの言葉に驚きの表情を浮かべていたゴンとキルアの顔を見たまま、私は小さく息が零れるのを感じた。
―――間に合ったらしい。

「―――これが念だとッ!?あいつが、とうさないって思うだけでこうなるのかよッ!?」
「本当の念について教えます。だからここで、ひとまず退散しましょう。」



―――ウイングの発言に頷いた二人の視線は、好奇心と不安、恐怖を含んでいて。
私が隣にいたことに酷く安心したのか、いつものキルアとゴンの視線を感じた私は唇を緩めた。
まあ、何というか…本当にこの二人は弟みたいだよなあ。


「―――もし、登録できなかったら…俺たちどうなるの?」
「ゴン様はまた一階から挑戦しなおせていただけます。
――けれど……キルア様は、以前登録を断わっていただいてますから…また未登録という形になりますと…登録の意思なしとみなされ…、参加自体不可能となってしまいます」




受付の女性の言葉とともに、二人が出したのは12時までに登録を行うということで。
隣にいるウイングさんに視線を移した私は口を開く。―――後で、会いにいけば良い話だ。


「―――ウイングさん。私は登録を済ませますので…ゴン達をよろしくお願いします。」

「――はあッ!?エミ、お前…何言ってるんだ?」


―――お前も教わりにいくんだろ?
そんな声を落としたキルアの発言に、苦笑を零した私は猫っ毛の彼の銀髪に手の平を乗せた。
優しく撫でた後、ゴンとキルアを見つめる。



「―――残念ながら、私は…既に【念】を知ってるの」


「……」
「……」



私の言葉に驚いたのはキルアとゴンだけで。
彼らの怒声が鼓膜を破くのを感じた私は、ゆっくりと立ち上がった。
これほど元気だったら、今日中には来れるだろう。


「―――お前、俺たちを騙したなッ!ふざけんなッ!―――今度から、もっと飯食うぞッ!」
「―――エミの馬鹿ーーッ!――俺も、いっぱい食べてやるッ!」
「――二人とも、基準が優しいね…」



相変わらずの二人の子供っぽさは私の中で癒しを生み出していて。
立ち去る三人を見送ったまま、念を放出するヒソカの横を纏をまとい、通り過ぎた私はトランプをくる彼を見つめた。
―――そういえば、この人って…どうやって来たのだろう。




「―――キミは、あの時のレディーじゃないか◆200階へようこそ。」
「―――…どうも。じゃあ、これで失礼します。」


―――本当に気持ちの悪い念を出すことだ。この変態は。
そんな風に考え、受付の方へ足を進めていた私は背後に感じるヒソカの視線に鳥肌がたつのを感じながら、口元を引きつらせた。




―――お願いです。近寄らないで下さい。









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