君はトランキライザー

□いつか、この花が咲くとき
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―――最近のアキナさんは様子が可笑しい。


「−−−エミちゃん、今日もちょっと出かけてくるね。」
「……はーい」


クラピカと蜘蛛の争いが落ち着いたのはここ最近の出来事で。ゴンとキルア、レオリオと別れた私は己の師であり(一応)恋仲となったアキナさんと旅を続けていた。
勿論、私たちが長い時間をかけてお互いの気持ちを認め合うことは酷く時間がかかってしまったけど。相手を想う感情をゆっくりとした時間をかけ、抱えていた私はここ最近、様子が可笑しいアキナさんの姿に首を傾げた。



―――今、私とアキナさんはとある島へと向かっている。名を―――小花島(コバナ島)。アキナさんの故郷であり、今は少数の民族が暮らしている小さな孤島だ。


何故、その島に向かうことになったのか。
それはアキナさん自身がその島に用があるとのことなのだが。
―――その本当の理由は弟子である私でさえも聞かされていない。




そうして、その島へ移動できるために船着き場へと足を進めていた私たちに向けられたのは、次に船がこの土地を離れるのは5日後であるということで。足止めを食らった私とアキナさんは、この土地で過ごすことになったのだが。




「−−−−どうしたんだろう…」



ここ最近、アキナさんは夜に出かけることが多くなった。それと同時に己と一緒にいる彼は普段と変わらず穏やかに笑っているのだが、何故か距離を置いているような感じがして。
小さく息を吐いた私は、下ろしていた茶髪を一つに結い、椅子に掛けたままのボーダー柄のパーカーを羽織った。
ふと視線を向けた空はすでに暗闇へと色を変化させていて。扉に近づいて行った私は、ドアノブに手をかけた。







―――――――――――――








つくづく思うのだが、夜の街は苦手だ。
歩きながら、円を周囲に広げていた私は何度も感じたことのあるオーラを探していて。中々見つからぬ己の師のオーラに唇を尖らせた。



「−−−どこほっつき歩いているんだか…」



どれくらい歩き回ったのだろう。
疲労を感じ、思わずため息が零れるのを感じた私は、眼前に迫ってくる人の気配を完全読み取っていなくて。


どん。人にぶつかった感覚に周囲に広げていた円を解除し、視線を前に向けた。
目の前にいるのは、明らかに一般人とは違う裏の世界の人間で。
ああ、面倒くさいタイプにあたってしまった。

内心で言葉を落とした私は、腕を掴んだ男の掌に顔を顰めた。


「−−−おい、嬢ちゃん。痛いじゃないかい。……って、可愛いねえ。一人かい」
「−−−どーも。生憎、今は一人ですけど」


あんたに褒められても嬉しくないけどね。


「−−−痛い思いをさせてすみませんした。ってことで離して…ひあッ!!」


掴んでいた己の腕の肌に張った生暖かい感触。空気にふれたその部分が酷く冷える感覚を覚えた私は背筋を走った寒気に唇を噛みしめた。
何すんだ、このクソ親父。


―――気持ち悪い。その感情と怒りを覚えた私の視界に入ったのは、男の肩に手を乗せる人間の姿で。


「−−−ああ、何だ。邪魔すんな…ってごあッ!」


私の腕を掴んでいた男の身体は殴られた反動から空中を舞っていて。己の目の前にいる金髪金目の美形男は酷く静かな表情で男を見下ろしていた。









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