魔界図書館
□新説 これが世界のミステリー
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<シンデレラ>
昔ある国に「弥子(シンデレラ)」という可愛らしい少女がおりました。
母親を早くに亡くした弥子は厳しくも優しい父親の愛情を受けすくすくと成長しました。
ある時、父親が再婚し、新しい母親と二人の姉がやってきました。
しかし、不幸なことに1年も経たないうちに両親は不慮の事故で亡くなってしまいました。
弥子11歳の時でした…
こうして弥子は二人の義姉と3人で暮らし始めました。
「ほらヤコ、『働かざるもの食うべからず』だ、しっかり働け!」
今日も朝から長姉「ネウロ」の妹イビリが始まりました…
ネウロはドSなので大好きな相手程いじめてしまうのです…
「ネウロお姉様は働いて無いじゃない!!」
「我が輩は自分の食い扶持は自分で得ているぞ?」
「嘘!! 家の家計が厳しいのはお姉様の無駄遣いのせいじゃないの!?」
粗末なドレスの弥子とは対照的に、ネウロは豪華なドレスを身に纏っています…
「このドレスや宝石達は全て貢物だ!」
長姉ネウロはとても美しく外では猫を被って御淑やかにしている為、騙された男達が貢物をもって屋敷を訪れます。
ネウロにしてみれば、馬鹿な貴族の子息共を手玉に取ることなど訳も無い事です。
「この家の家計が火の車なのは全部貴様の食費に消えていくせいであろう。シックス公爵家のことを忘れたとは言わせんぞ。」
「うっ…」
弥子は可愛らしい顔、華奢な身体つきにも関わらずかなりの大食漢で、あのシックス公爵家の身代を潰した程です…
ある時、シックス公爵家からネウロへ晩餐の招待がありました。
「両親を無くしたばかりの3姉妹の手助けをしたい」と言うのが表向きの理由でしたが、シックス公爵家の現当主はかねてからネウロを狙っていました。
しかし、その事を察していたネウロは、
「御招き頂きありがとうございます。しかし、私には幼い妹達も居ります…妹達に寂しい思いをさせる訳にはまいりません。」
と、返事をし、
「では、御妹君達も一緒に」
と言うシックス公爵の言葉に
「ありがとうございます。大変厚かましいお願いではございますが、実は末妹は大変よく食べるのです…、しかし、お恥かしい事に私には満足に食べさせてあげる事が出来ないのです…是非公爵様のお力で妹にお腹一杯食べさせてはいただけないでしょうか?」
「ネウロ嬢は大変な御妹君思いなのだな。任せなさい、御妹君達のことも私が面倒を見よう。」
「ありがとうございます!!」
感謝に瞳を潤ませる可憐な令嬢を演じるネウロは、心の中で舌を出していました…
晩餐に招待された3日後、漸く「ご馳走様でした」と言った弥子にシックス公爵は引きつった笑顔で聞きました。
「お腹はいっぱいになったかね?」
弥子は満面の笑顔で答えました。
「ううん! まだ腹5分目くらい!]
そして、純真な弥子は続けました、
「公爵様次はもっと変わった御料理が食べたいです!」
プライドの高いシックス公爵はネウロを手に入れる為に各地から珍味や豪華な食材を取寄せふるまいました…
その結果、たった数ヶ月でシックス公爵家は弥子の異常な食欲で身代を潰したのでした…
勿論、ネウロは自分にもそれなりの物を貢がせていたのですが、それは弥子の与り知らぬ事…
「あの、余裕たっぷりの表情が段々と青ざめていく様は見物だったな!」
「だってお姉様が『いくらでも食べて良い』って言うから…」
「まあ、良い。あいつのしつこさには我が輩も辟易していたところだ。」
ネウロはシックス公爵家がクーデターを起こす計画を立てていた事を暴露し、ちゃっかり国王からの謝礼も受け取っていました。
「で、ヤコ、ここにゴミが落ちているぞ。しっかりと掃除せんか!」
「わざわざゴミ箱を引っくり返すな!!」
・・・・・・・・・・・
月日は流れ、ネウロ24歳、弥子16歳になりました。
「忍、今日の国王主催の舞踏会には貴様を連れて行くぞ。」
次姉 忍は22歳でしたが、素行が悪くとても淑女には見えませんでした…
しかし、面倒見が良く皆に慕われていました。
「ああ!? なんで俺がそんな所に行かなきゃなんねえんだよ!!」
「えー?忍お姉様が行くなら私も行きたい!」
「忍、我が輩のいう事が聞けんのか?」
「…(断ったら殺される…)」
忍は不透明な汗を流しながら了承しました…
「ヤコ、貴様は留守番だ!大体着ていくドレスも無いではないか!」
「お姉様のドレス貸して!」
「貴様に我が輩のドレスが着られるわけなかろうが」
スラリとした長身のネウロに対して、弥子はとても小柄です。
「そんなぁ〜、私も舞踏会でご馳走食べたいよ〜」
「…食い気優先かよ…」
「自業自得だ諦めろ!」
こうして可哀想な弥子を残して二人の姉はお城の舞踏会へと出掛けて行きました。
そんな姉妹のやり取りをいつも見ていた隣に住む魔女のあかねは、一人留守番をする弥子を不憫に思い彼女を舞踏会に連れて行く為の準備を始めました。
先ずは、クローゼットの奥から弥子の母親のドレスを引っ張り出し、弥子のサイズに仕立て直します。
そして、弥子の前に姿を現すとこう言いました「このドレスを着て舞踏会へお行きなさい」と
喜んでお礼言いドレスに着替える弥子に「馬車の用意をしてくる」とあかねは畑へ向かいました。
収穫を今や遅しと大きな実を着けたかぼちゃで馬車を作る為です。
しかし、畑にはかぼちゃがひとつも見当たりません…
確かに今日の昼間は沢山有ったのに…
不思議に思い弥子の元へと戻り聞いてみます。
「かぼちゃ?お留守番の腹いせに全部食べてやろうと思って厨房にあるよ」
急いで厨房へ向かったあかねが見たものは…
無残にも細かく刻まれたかぼちゃの山でした…
がっくりと肩を落としたあかねに弥子は無邪気に言います…
「プリンにタルト、パイ、クッキーでしょ、後はグラタンにサラダ、スープ、シンプルにオープンで焼いただけでも美味しいし、そうそう煮付けも欠かせないよね!」
既に弥子の言葉はあかねの耳には入ってませんでした…
「ごめんね弥子ちゃん…舞踏会連れて行ったあげられたくなっちゃった…」
「な、なんで!?」
「かぼちゃがね…」
「かぼちゃがどうしたの?」
あかねは言いにくそうにしていましたが、
「馬車にする予定だったかぼちゃをお料理に使っちゃったみたいなの…」
「へ?」
「だからごめんなさい!今回の話は無かったということで…」
ショックで固まってしまった弥子を残してあかねは消えてしまいました。
「嘘でしょ〜!!」
弥子は自分で舞踏会へ行くチャンスを潰してしまったのでした…
その頃、お城では…
「忍君、ここはどうすればクリア出来るのかね?」
「さっき教えたばかりだろうが!」
望月国王に気に入られてしまった忍が、愛人に大抜擢されるという珍事が起きていました…
こうして忍を金蔓として城に送り込んだネウロは、大好きな弥子といつまでも幸せに暮らしました。
〜おしまい〜
(2009.10.5)
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