小説〜SIREN〜

□一章 芦川 大志
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芦川大志はかれこれ一時間近く船に揺られていた。
どうも慣れないようで酔いそうだった。
新聞を読んでいるせいでもあるのだろう。
28年前の新聞。
異界世村大震災の記事が、大々的に取り上げられていた。
芦川が今向かっているのも異界世村だった。
今では寂れた村で活気も皆無と聞いている。
「しかし、何であんな村に行くんだい?」
船長が聞く。
「実は、先生が行方不明なんです。かれこれ三日は家に帰ってないらしくて。心配になって探しに来たんですよ。」
芦川はうつむきながら答えた。
「先生?先生がこんな島に何の用なんだい?」
すかさず船長が聞いてくる。
「先生はこの村出身なんですよ。」
芦川は新聞から顔を上げて船長に向かって言う。船長は頷いた。
「そうかい。その先生ってのは何ちゅう名前なんだい?」
芦川はそう聞かれると胸のポケットから一枚の写真を取り出して答えた。「石田猛っていうんですけど知りませんか?」
すると船長の顔が驚きに満ち始める。
「石田だって?・・・そうか。彼は帰って来たんだな・・・。」
船長は思い出したように言う。
その反応に芦川は食い付いた。
「先生のこと、ご存知なんですか!?」
船長はのんびりした口調で答える。
「28年前の異界世村大震災の時、そいつは両親を失ってるんだ。」
芦川は急に悲しくなってきた。
「そ、そうだったんですか・・・。」
船長はすぐに続ける。
「それからじゃよ。異界世村が、寂れていったのは。」
「大震災のせいなんでしょうか?」
芦川は聞いた。
「さあな・・・。他にもとんでもない理由があるのかもな・・・。」
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