小説〜SIREN〜

□五章 北原 雄輔
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体全体に激痛が走った。
しばらく起き上がりたくない。
このままもう一度深い眠りにつきたい。
いや、いっそ死んでもいいかもしれない。
雄輔は倒れたまま目をつぶる。
すると見たくもないのに他人の視界が脳裏に入り込んでいる。
視界ジャック…。
だんだんはっきりと見えてくる。
そこには美耶子が映った。
どうやら美耶子は誰かに助け出されたみたいだな。
ゆっくりと目を開ける。
「視界を盗めるということは私ももうじき…。その前に、私は私の使命を果たそう。美耶子が先か、私が先か…。」
ゆっくり呟いた。
北原医院のすぐ近く。
そり立つ崖のすぐそばで倒れていた。
美耶子を助けた後、やつらから逃げる途中にこの崖に足を滑らせ気を失っていたみたいだ。
それにしても長い時間気を失っていたようだ。
気分が悪い。
頭痛もした。
ふらふらしながら立ち上がりあたりを見渡す。
自分の病院の裏口が目の前にあった。
ドアノブをつかんで回す。
しかし開かなかった。
鍵がかかっているようだ。
「くそ。私には取りに行かなければならないものがあるというのに。」
どうしようか考える。
屍人と化した村人たちが院内をさまよっている可能性は間違いなく100%だ。
視界ジャックは、自分が人間として生きている時間が減りそうで使いたくなかった。
おそらく正面入り口は危険だろう。
万が一屍人と遭遇した時のことを考えて武器を取り出す。
日本刀焔薙。
昔、玄武から授かったものだ。
今回の儀式のために白衣の下に忍ばせていたのだ。
美耶子を逃がすために。
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