雨のお品書き
□アンチ ハッピー バースデー
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今日は日曜日で、店の多くは締まっていて、マフィアのボスであるオレも…今日くらいは休みたい。
というか、休みだ。無理矢理もぎとった。
夜には無駄に立派なパーティーがあるからそれまで、恋人と過ごすつもりだ。
「おかしいな。いつもなら、起こしにきてるはず…」
時計を見れば9時。
普段であれば、間違いなくたたき起こされている時間だ。
気を効かせてくれたのだろうか?
でも、今日の休暇は伝えてない。朝一で驚く君の顔を見ようと思ったから。
「まあいいや。オレの方から出向けばいいんだし」
伸びをして、ラフなシャツにジーンズを穿いて、マフィアになんか見えない自分を鏡で確認すると、出発の準備は完了。
隣に並ぶ彼の部屋へと向かう。
ノックを3回。
さらに呼んでも返事がないので、マスターキーで鍵を開けると、やはり主不在の様子。
「…まぁ、妥当に考えるなら、執務室だよな」
昨日今日と連日パーティーを行わなくてはならないファミリーたちは、慌ただしくしていることだろう。邪魔はしたくないけど、仕方ない。
執務室にたどり着くまでに、すれ違う全員に今日だけの特別な言葉を贈られる。友達もいなくて、両親くらいしか祝ってくれなかった頃とはすごい違いだ。
あの頃だったら、浮かれてたかもしれない。
でも、今はたった一人からで満足だと思えるようになった。
これも大人になったっていうことかな。
「バジル?」
開けると同時の呼び掛けは、またも空振り。
「間抜け面め。バジルならいねーぞ」
「いないって、どこ行ったんだよ?」
「……さあな」
「…何か知ってるだろ?」
嫌な微笑みだ。
「大方、お前に愛想を尽かして出ていったんじゃねーかと思っただけだ」
「あぁ、そーですか」
探し人のいないこの部屋には用がない。早く見つけなくちゃ、限られた時間はそんなにない。
こういう時、この広い敷地を恨みたくなる。
誰にきいても、知りませんしか返ってこない。
「ていうか、オレが呼んだ時点で現れないってことは、ここにいないんじゃないのか?」
呼べばすぐに現れて、オレを幸せにしてくれる。
それが常なのだ。
何故今日に限っていてくれないんだろう。