雨のお品書き
□並盛荘物語
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「恭弥〜、大きい荷物運ぶぞ〜」
「好きにすれば」
本日並盛荘にご入居の、ディーノさんと雲雀恭弥さん。
荷物を運ぶのは、専らディーノのお仕事のご様子。雲雀はトラックの荷台に荷物と一緒に乗ってる。
【入居〜108号室の住人の場合〜】
「……なんで今日に限って部下を連れてこないわけ?」
「オレが、恭弥とオレの愛の巣に、部下なんて連れて来る無粋な男だと思うか?」
雲雀は、いろんな意味で切れそうな状態。
まず一つ「愛の巣って何?」。そして二つ目「荷物を運ばせる人手くらい確保して来い」。
もっとも、自分も手足のように使える風紀委員には声をかけなかったのだから、仕方がないのかもしれない。
それにしても、今日のディーノは頭にバンダナなんかを巻いて、なんだかいつも以上に爽やかな好青年のよう。
雲雀が全く荷物の運び入れに協力しないというのに、文句の一つもつけないディーノ。だからこそ、雲雀も強くは言えないようで、ただ動かずにいるだけで我慢しているのだった。
まだ新築の並盛荘。
大家の紹介で入居することになったのですが、部屋は空き空きで選び放題。
2階建てのこのアパートで、ディーノが選んだのは2階の端にある208号室。
『8は日本で言う…「ひろすえがり」なんだろ?』
『…広末は狩らないよ。「末広がり」ね』
そんな会話をしたのも記憶に新しい。縁起を担いだらしいのだが、問題が起きた。
トラックの荷台の上で本を読んでいた雲雀の元に、大きな物が落ちる音が聞こえて読書の邪魔をした。
「うわ〜!!やべぇ」
ディーノが階段の上から顔を覗かせている。…どうやら、運んでいた机を落とした模様。
「………」
雲雀は、見なかったことにした。
数分後、今度は更に大きな音。
「やっべ!!ミスった!」
なんと、本棚と一緒にディーノまで落ちているではないか。
「!!」
さすがの雲雀も目を見開き立ち上がったが、ディーノが笑って手を振っているので、無視をすることに決定。動揺したのを気付かれたくなかったのだ。
「恭弥〜、オレもうボロボロ…」
「貴方が鈍いからでしょう」
あの後何度も階段を滑り落ちながらも、荷物を取りにトラックに戻ってきたディーノには、確かに傷がたくさん出来ていて、少し痛々しい。
それでも、雲雀は見ないふり。
「冷たい…。まあ、でも、後はこいつだけだしな!!」
そう言って、ディーノが担ぎ上げたのはテレビ。
重い上に、電化製品です。
「…それを置いて、動くな…」
ついに雲雀は重い腰を上げ、大家兼管理人の住む101号室に、ノックもせずに駆け込んだ。
「ちょっと、赤ん坊…お願いがあるんだけど」
「ちゃおっス、ヒバリ。さっきからバタバタうるーせのは、お前らの引越しか?」
「五月蠅いのはディーノだけだよ。で、お願いなんだけど」
「おう、なんだ?」
大家でありながら、管理人もしているリボーンは、突如乱入してきた雲雀を余裕の表情で迎え入れる。
多分、雲雀の頼みなどリボーンにはわかっているのだろう。
「部屋、変えてくれない」
「別にかまわねーぞ」
リボーンが少し笑ったように見えたのは、気のせいではない。きっと、彼の予想通りの頼みごとだったから。
「そうだな、下の108号室を使え。間取りも208となんらかわらねーしな」
「…そう。無理言って悪いね」
「別にいーぞ。あのまま2階暮らしだと、ディーノが階段から落ちる世界記録作っちまいそうだしな」
リボーンに返事の出来ない雲雀。
だって、その通りだから。
あのまま何度も落ち続けたら、丈夫なディーノであったとしても、いつかきっと大怪我をしてしまう。
それは嫌だから。
「とりあえず、これからよろしくね、赤ん坊」
「こちらこそよろしくな」
挨拶も済ませ、待たせていた同居人の所に戻って、雲雀は部屋を変えたことを伝える。
「また荷物運びなおし?」
情けないディーノの声に、雲雀も少ししまったなといった気分。
上から下に運びなら、またこの人は落ちかねない。
もっと早く動けばよかった、と。
「…今度は僕も手伝うよ」
その代わり、落ちる時は一人で落ちてね、と、雲雀恭弥は並盛荘の階段を初めて登った。