雨のお品書き
□僕だけが知っている
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ボンゴレの10代目が住むお屋敷。
屋敷の前を掃除しているのは、一応幹部のはずのランボ。
「ランボ君?」
控えめに声をかけてきたのは、彼が昔非常にお世話になった一人の女性だった。
「…京子さん?」
「うん。久しぶり」
昔と同じ笑顔で微笑んでくれた彼女に、とても懐かしさを覚えた。
自分を取り巻く優しい人たちの中で、彼女とはもう会えないかもしれないと思っていたから。
住んでいる世界が違うから。
「ボス!呼んできましょうか!!入ってください!!お茶お出しします」
ボスの昔の恋人。
大切すぎて連れて来ることができなかった、最愛の女性。
それは、あの頃から二人を知っている者なら周知の事実。
もうあれから何年も経ってしまったけれど、きっとボスだって会いたいに決まっている。そうランボは思ったのだ。
自分の考えに嬉しくなって、ついついはしゃいでしまった。
「ううん、いいの。ツナ君には言わなくていいよ。お兄ちゃんに渡したい物があっただけだから」
昔はマフィアのことなんて何も知らなかった彼女も、今は理解している。
昔の恋人の立場。
昔のクラスメート達がどんなことをしているのか。
自分の兄が、何をしているのか。
だから、入ってきてくれないのだろうか。
「あ、ごめんね。本当はランボ君ともお話したいんだけど、友達と旅行中なの」
気を遣っているわけではなく、本当にそうなんだろう。でも、やっぱり寂しい。
きっと今は彼女にも恋人がいるだろう。
ボスにもいるように。
時は流れて、状況は変わっている。
「…きっとボスはお会いしたいと思われているのに」
それでも、変わらない想いもあるはずで、ランボにとって彼女が大切な女性であるように、ボスにとっても彼女は大事な存在だと思うのだ。
だから、会わせてあげたい。
「多分、ツナ君は会わないと思うよ」
彼女は悲しげな笑顔で言った。
「そんなはず、ありません!!」
「ううん。それがツナ君の優しさ。もう私と会わないことで、巻き込まないようにしてくれてるんだよ」
わかるようで、わかりたくない言葉。
だって、その言葉は彼女との再会を夢で終わらせてしまう。
「…あのね、ツナ君はあの日『さよなら』って言ったの」
箒を持ったまま立ち尽くすランボに、彼女は微笑み続ける。
あの日もそうしたように。
「ツナ君って言葉を優しく使う人なんだよね。だから、すぐにわかったの。いつもは『またね』っていうのに、あの日は『さよなら』だったから、これで最後なんだって」
だから、彼女も笑顔で答えたのだ。『さよなら』と。
いつかそんな日が来るのはわかっていたけれど、家に帰ってから…涙した。
「京子さん…」
「だから、会わないの」
もう吹っ切れた過去の想い。
「ランボ君、ツナ君は今幸せかな?」
幹部なら知っている、ボスの幸福。
「はい。幸せにしています。あの頃のような平和な日常とは言いがたいですが、ボスは幸せです」
それを伝えれば、彼女も嬉しそうだった。
「京子さんは幸せですか?」
そして、ランボはその答えをボスに伝えなくてはならない。
「もちろん。幸せだよ!!」
今日一番の笑顔だった。
ランボだけが知っている、二人の想い。
END
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