雨のお品書き
□ひとひら
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腕の中の温もりは、優しく…そして、愛しい。
柔らかい髪の毛は、昔より長くなった。並んでいた身長は、いつの間にか差が出来て、見下ろせるようになった。
言葉にするより前に、望むことを実行していてくれるのが彼。
嫌な顔一つせず、いつも笑顔でオレを見守っていてくれたのが日本にいた頃の日常。
イタリアに来てからは、一番側で支えてくれた。語学面、生活面、仕事面すべてにおいて彼の力なしに今のオレは存在しない。
「甘えてたよな、オレ」
さらさらの髪を撫で、あの頃を思い出す。
右腕を名乗る彼とは、中途半端な馴れ合いを辞めさせる為に距離を置いた。多少寂しいと思ったけど、それが彼のためだと思ったからだ。
親友だった彼は、オレが頼り切る前に遠ざけた。一応その頃には自覚があったのだ。自分がボスになるのだという、確かな未来。
先輩達は、もともと頼りにしてはいたけど、甘えるような親しさは持っていなかったから、そのままだったっけ。
そんな中、一番距離の取り方の上手な君を側に置いた。
一歩下がって仕えるような姿勢と、隣に並んで歩けるような親しさを持ち合わせている君だから。
まさか、好きになるなんて思わなかった。
いや、違う。最初から好きだった。
大切な存在だったけど、恋愛感情ではなかっただけ。
依存してはいたけど、それは本当にただの信頼。この子になら弱さを曝け出しても助けてくれるっていう、過大な甘え。
こんな環境で、何か縋るものが欲しかったんだ。他の何かじゃない、オレをわかってくれる人の温もり。母さんの腕の中も、こんなだった気がする。絶対の安心感。
ああ、半年振りに…眠れそうだ…。