雨のお品書き

□紅色花恋抄
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第一夜
【純情花恋 序】



赤い提灯、紅い花。
朱塗りの柱、緋色の毛氈。


今宵も夢の街は、鮮やかに色付き始めた。



この大きな街で一番の見世、あさり屋。
建物の豪奢さ、酒の質、そして娼の美しさ。どれをとっても、他の追随を許さない。



「黒真珠の瞳、バラの唇。髪は烏の濡れ羽色」
「賢く才長け、飽きさせず。床での遊戯は…」


「俺らが知れるほど、安くない」


見世の前を通り過ぎた男たちが評していったのは、あさり屋随一の娼。

つまり、街一番の娼。


花たちは通りに面した部屋に入り、今夜も客を待っている。
朱色の格子は情欲を煽り、娼たちを一層美しく見せていた。


「今更このような所にいなくとも、馴染みの旦那がいるんじゃないのかしら?」
「そうよねえ。ほら、商館にいらっしゃる異人さんとか」


低俗な言葉には耳を貸さず、大輪の花は一際鮮やかな一間に入る。


その瞬間、騒がしいくらいだった世界が、無音になる。

一歩踏み出すごとに響く、簪が揺れる音。その澄んだ音だけが、音源の全て。

決して微笑んだりしない、美しい顔。揺るぎない視線。

老若男女、誰もが目を放せなかった。



「さあお立会い。街随一のあさり屋が誇る、雲雀姫の顔見せだ」


娼妓が部屋で座るとすぐに、静まり返った通りには客引きの男が現れる。


「しかしながらこちらの姫君、美しいだけでなく、どこをとっても欠点がない。…唯一値段が高いことが、みなさんには残念だ。並々ならぬ花代を頂くことになりますまい。さてお兄さん、そこで提案だ。あさり屋が誇る姫君は、なにも雲の姫だけじゃあない!花に種類があるように、うちの花も色とりどり。きっと気に入った妓がみつかるはずだ!!」


長々とした口上が終わると、花たちはいっせいに色香を振り撒く。


ただ二輪を除いて。



「壁ばかり見ていても、客は捕まらないよ」

「それでよいのです」

「…いつまでたっても、ここから出られないよ」

「……それでも……」


それ以上の会話は出来なかった。

「雲雀、お客様だよ」
「そう」


あさり屋の誇る大輪の牡丹は、来た時よりも僅かだが微笑み、中に入る。


「…甘いね」


ただそれだけを、隣室の壁に向かう花に言い残し、雲雀は客のもとへむかった。
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