雨のお品書き
□紅色花恋抄
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第三夜
【夢想花】
輝く緑と、澄んだ青。
そこに舞うのは、色とりどりの花びら。
ゆっくりと落ちる花の向こうで微笑む君は、何よりも綺麗だと思っていた。
夢に見るくらい、好きな人がいる。
幼い頃には、一緒に街中を走り回った。
いつも正しい彼女。
真っ直ぐな瞳は、この見世に来てからも変わらなかった。
「……懐かしいな」
街一の花見世、あさり屋で働く一人の青年。
明け方に床につき、目覚めたのは昼前。
差し込む陽の光りが眩しくて、目がなかなか開かない。
もう一度寝たって、夢の続きが見れないことくらい、さすがに知っていた。
「……そろそろ仕事しないと」
癖のついた柔らかいを手櫛で整え、帯を締め直し、気合いを入れる。
だからと言って、何かが変わるわけではない。二枚目なのにどこか頼りない雰囲気は、気合いを入れたところで消えやしない。
「…だから未だに弟扱いなんだよな」
自分でもよくわかっていた。男として見られていないこと。
でなければ、こんな所で一緒に働いてはいないだろう。
彼女を追ってこの見世に来た自分が、おかしいこともわかっていた。
こんなに近くで、自分の好きな人が他の男と関係を持つ様を見せ付けられるのは、正直辛かった。
そして、だんだん美しくなる彼女に、さらに胸を傷める。
「ランボ、仕事だぞ」
「…やれやれ、せっかちな人だ」
刻限を過ぎていたけれど、浸れる感傷には浸るようにしているランボ。持田が呼びに来なければ、まだまだ動きださなかったことだろう。
今、このあさり屋はとても忙しいというのに。