novel
□始まり
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最近私は――自分でもどうかしていると思う。
成歩堂の存在が気になって仕方がないのだ。
気がつけば成歩堂のことばかり考えていて、仕事中なのにも関わらず、成歩堂のことで頭が一杯で……。
何故こんなにも彼の存在が気になるのだろう。
この気持ちは、なんなのだ…?
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【成歩堂法律事務所】
「なるほどくーん…」
「何?真宵ちゃん」
「なんていうか、暇だよねぇ〜…」
「……まぁでも、たまにはこういう暇な時があってもいいんじゃないかな?」
今日は事務所にはお客さんが来なくて、ボクと真宵ちゃんは特にすることもなく、ダラダラと過ごしていた。
新米だった頃は、お客さんなんて本当に来なかったもんだけど、今はこれでも名の知れた弁護士で、それなりにいつも忙しい。残業もしばしばあるほどだ。
だから、今日みたいな客が来ない日は珍しいのだ。
時計は午後3時を回っている。
「真宵ちゃん」
「ん?」
「今日は暇だし。なんなら帰ってもいいよ?お客さんが来ても多分ボク1人で大丈夫だと思うから」と、微笑んで言った。
「え、いいの!?ありがとう、なるほど君!」
やることがないのにいつまでも居てもらうのはちょっと可哀想かなぁと思うし、何よりもいつもしっかり働いてくれているのだから、たまにはこういうのも必要だよなぁと思ったのだ。
そして、真宵ちゃんは帰り支度を終えた。
「それじゃあ、また明日ね!」
「うん、気をつけて…」
――それから更に時間が過ぎて、午後6時になった。真宵ちゃんが帰ってからは1人お客さんが来ただけだった。いつもは7時くらいまで事務所を開けているが、もうお客さんも来ないだろうしそろそろ閉めてしまおうかなぁ、と考えていたその時………
『ピンポーン』
こんな時間帯にお客さんか…
そう思いながらボクは、急いで玄関へと向かった。
「はーい、成歩堂法律事……え?」
目の前にいる人物を見て、ボクは仰天した。
ワインレッドのスーツに、やけに目立つ三段フリル…
「み、み、御剣!?」
「ム…久しぶりだな、成歩堂。その…忙しかっただろうか?」
「いや、忙しくはないけど……どうしてお前がここに…?」
「ムぅ…迷惑であっただろうか?」
「いやいや、全然!玄関で立ち話もなんだし、まぁ上がれよ」
「うム…」
御剣がボクの事務所に来るのは本当に珍しいことだった。お互い仕事で忙しいし、仕事以外の用事で会うのは滅多にない。
だから、いきなりの御剣の訪問には心底驚いた。最初は仕事の用事で来たのかとも思ったけど、仕事の場合はいつもボクから検事局へ行って話をするから、仕事の用事ではないわけで…。
いきなりどうしたんだろう、御剣のヤツ。
しかし、こうして御剣と会えるのは素直に嬉しかった。なんて言ったって久しぶりに親友と会えたのだから…。
ずいぶんと珍しいお客さんが来たもんだなぁ…そう思いながら御剣を部屋に招き入れた。
「適当に座ってよ。えっと…飲み物は紅茶で良かったかな?」
確か御剣は紅茶が好きだったよなぁ、と思い出しながらキッチンへ向かう。
「うム…すまないな」
御剣が来客用のソファに腰掛けた。御剣は眉間にしわを寄せていて、むっとした表情でいた。そして、じっとあるモノを見つめていた。御剣が見ているモノとは…
「なぁ……御剣」
「なんだろうか?」
「その…キミの視線が気になるんだけど…ボクになんかあったかな?」
「ム…?わ、私は別にキミのことなど見ていないッ!」
そう言って御剣は何故か顔を赤らめてぷいと目を反らした。
…なんだ、コイツ。意味が分からない。そういえば…ずっと前に検事局で会った時も見られているような気がして、「何?ボクの顔に何か付いてる?」って聞いたら「ム…?キミの顔?」と訳が分からないと言った風に聞き返されて、「いやだから、お前さっきからボクのこと見てないか?すごい視線を感じるんだけど…」と半ば呆れたように言うと、「…!わ、私は何も見てなどいないッ!」と何故か顔を赤らめて俯いてしまった。
あの時も意味が分からなかったなぁ…とそこまで考えて、そういえば御剣の様子、おかしいよなぁと思いなおした。ひどく考え事をしているというか…何か悩みでもあるのか、などと考えながら、御剣に紅茶を差し出した。