novel
□始まり
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「どうぞ」
「ム…」
御剣が紅茶を一口飲んだ。
「それで、御剣。ボクに何か用があるんだろ?」
「ム、ムぅぅ………」
「どうした?何かあったのか?」
「ムぅぅ………」
「……………」
「……………」
「……………」
―――沈黙。
――なんだこの沈黙は。
成歩堂はなかなか話を切り出さない御剣を冷や汗をかきながら見ていた。
「………あのさ、御剣」
「ム…なんだ?」
「いやいや!なんだ?はないだろ!ボクに話があるんだろ!?」
「ムぅ…」
そういえば、御剣と2人きりで話すのは久しぶりのような気がした。何かといつもは真宵ちゃんやイトノコさんがいたりして…こうして2人で話すことはなくて、いざ2人きりになると、妙な雰囲気を漂わせていた。
せっかくの親友と一緒に居るというのに、どうしてくつろいで普通に話すことが出来ないのだろうと、成歩堂は内心うなだれていた。
御剣は多分、ボクが話しかけなければ口を開かないだろう……まずは世間話をした方が…この間の仕事の件について聞いてみるか……などと思考を巡らせていると、突然御剣は意を決したように口を開いた。
「………成歩堂」
「!…どうしたの?」
「…その、私は困っているのだ……」
あぁ…やっぱり御剣には悩みがあったのか。御剣の顔はひどく困っていて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。ボクは内心ギョッとしながらなるべく優しい口調で返した。
「なんだ?何でも言ってみろよ」
「………その、だな。私は最近、気になっているのだ」
「何を?」
「それは………
……………
………キミだ、成歩堂」
は………?
御剣の言葉を理解するのに数秒かかった。
いや…待て待て。ボクが気になる、だって?何言ってるんだコイツ?
今度は成歩堂が困る番だった。
「御剣……お前、何言ってんの?」
「ム…だから、今言ったではないか。私は最近キミのことが気になって仕方がないのだ……ひどい時で仕事中までキミのことで頭が一杯なのだ。なんなのだ一体…!」
御剣は本当に泣きそうな顔をしていた。
……いや、なんなのだって…その台詞そのままそっくりお前に言い返したいよ。もうどこから突っ込めばいいのか分からない。
「…えーと、その……御剣?」
「ム…?」
「その…ボクの何がそんなに気になるの?」
「キミと言ったら、キミだ。キミのその…す、全てなのだよ…」
………駄目だ。
脳が……ついていけない。
ボクは本気で、そう思った。
そしてふとある嫌な予感が脳裏をよぎった。まさか……コイツ………
「き…気になる…って、あの…それってどういう意味で?」
「ム…それは分からない。分からないが、なんというか……キミを見ていると…いや、考えているだけで……こう、胸の奥が熱くなってくるというか…」
「わ、わわ、分かったよ!それ以上言うなバカ!」
「バ、バカとは何だ…!キミから聞いたのではないか!」
今度はボクが赤面した。タチの悪いことに、コイツはきっと自分が今どういう気持ちをボクに抱いているのか分かっていない。コイツは………その感情を知らないのかもしれない。そして、ボクだけが気づいてしまった…なんてことだ…そんなまさか…御剣が……。
ていうか、どうしてボクが分かって御剣は分からないんだよッ!っていやいや、そうじゃなくて!まずボク達は同性であり親友であり弁護士と検事で――…。
成歩堂は頭の中でぐるぐる思考を巡らせながら、俯いて押し黙っていた。
「……な、成歩…堂?」
ハッとして気づくと、御剣は上目遣いでボクの顔を下から覗いていた。
そ、そんな目で見つめられたら…っていやいや、そうじゃなくて!
「その……突然こんなことを言ってしまってすまなかった。ずっと悩んでいたのだが、キミのことなのだし、いっそのことキミに言ってしまえば気が楽になると思ったのだ……」
――すいません、いっそのことそのまま言ってほしくなかったです。
「お前、さ。自分のその感情……どういったものなのか分からないんだよね?」
「ムぅ…すまない、分かればキミにちゃんと伝えたいのだが……」
――いや、それはそれで余計困るんだけど。
「…キミにこんなことを話しても、分かるはずないのにな…すまなかった」
――いや、ごめん。分かっちゃったよボク。あぁもうこのバカ!天才検事のクセに、何で分かんないんだよ!いやいや、分かったら分かったで困るんだけど…。
どうしよう―…ボクどうしたらいい。まさか親友である御剣から、こんなことを言われるなんて夢にも思ってなかった…。