novel
□自覚
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翌日、午後5時。
「御剣〜!すまねぇ、待ったか?」
「いや、大して待ってはいない」
矢張はいつものオレンジ色のジャケットを着て登場した。
「あれ?成歩堂はまだ来てねぇの?」
「いや、成歩堂は来ない。というより、誘ってないからな…」
「え…何でだよ?」
「私はキサマに成歩堂のことで相談があるのだ。それなのに、呼べるわけないではないか。」
「え、な、成歩堂のこと、か…」
矢張は驚いていた。無理もない、普段の私からしてみれば、誰かについて相談するなんてことは、ありえないからな。
それにその相手が親友の成歩堂だ、驚いて当然だろう。
「とりあえず、中に入ろう…」
「あ、あぁ……」
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「それで、オレ様に相談って何よ?」
「そ、それは………」
私は一呼吸おいて、矢張に話始めた。
「私は、その…気になっているのだ」
「何がよ?」
「………成歩堂だ」
矢張は意味がわからないといった風に目をぱちくりしていた。
「成歩堂が気になるって?アイツの何が気になるってんだ?」
「その……なんというか……全て、なのだよ。
気がついたら成歩堂のことばかり考えていて………考えれば考えるほど…胸が苦しいのだ……私は一体どうしてしまったのだ……この気持ちは何だ!もどかしくて、苛々する…!」
「………………」
―――沈黙。
しばらくして、矢張が口を開いた。
「……それが、お前の悩みなのか?」
「……そうだ。自分でもこの感情が何なのか分からない。胸の辺りが苦しくなるだけで……何も分からないのだ………」
「ふぅん…そうか………」
「……そうかって…キサマ、何か分かったとでも言うのか?」
「分かったも何も……そのまんまじゃねぇか……」
「なんだと!?」
「お前、本当にその感情何かわかんねぇの?」
「ム、分からないからキサマに聞いているのではないか」
「……………」
「……………」
―――沈黙。
矢張は、何もかも分かったような面持ちで、私を見ていた。
しばらくして、矢張が口を開いた。
「………お前、まさか成歩堂にはそのこと言ってないよな……?」
「ム……言ったが…それが何か?」
「い、言ったのかよッ!!」
矢張はかなり驚いていた。
「お前なぁ…言ったのか…それ……」
「別に…言ってまずいことではなかろう?」
「……成歩堂は多分、相当困っただろうな」
「確かに困ったような顔はしていたが、まさか…成歩堂にも分かったというのか?」
「それ聞いてわからない奴はいないと思うぞ……?」
「……ッ!」
矢張は、はぁ…と溜め息をついて呆れた顔をしていた。
「御剣………」
「なんだ、矢張」
「本当に俺の口から言って良いんだな?」
「良いから、早く言いたまえ」
しばらくの沈黙のあと、矢張が口を開いた。