短編とか
□とある作家の英雄実録記
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「こーんばーんはー!ご飯くーださいっ!」
アパートの薄い扉を叩く音がする。
漫画を読んでいたサイタマは無視しようと思ったが、今日から押しかけてきた自称弟子が『敵ですか?』と言わんばかりに殺気立ったので、
あわてて立ち上がりだんたんとリズミカルに音が鳴っている扉へ向かった。
「うるせーよ!」
「あっ!サイタマ、ご飯!」
「俺は飯じゃねぇ。…今日の飯はうどんだぞ。」
「やっほー!うどん、おいしいよね!38日連続で食べても飽きないよ!」
「嫌味か。」
どんぶりを抱えて入ってきた女に、ジェノスは警戒を強めて言った。
「先生、敵ですか?」
「えっ、サイタマ、先生になったの!?ニートじゃなかったの!?」
「女、先生という偉大な方に、偉そうな口をきくなよ。」
「うわ、すげー。めっちゃ崇められてんじゃん。サイタマせんせーやるじゃん、おっすおっす。」
「この女…!」
今にも喧嘩(一方的)が始まりそうな状態にサイタマの頬がひきつる。
ジェノスが声を荒げようとしたとき、大きな腹の音がなった。
「あっ、大変!私の胃が空気を腸に移動させてる!」
「普通に腹が鳴ったって言えよ。」
「勉強になるかなーって思って!」
「誰のだよ。」
「え?視聴者?」
「テレビか。」
慌ててうどんを作り、すする女にジェノスは動揺を隠せなかった。
殺気も効かず、うどんを食べているはずなのに隙がなく、ジェノスはサイタマに小さく話しかけた。
「先生、この女、何なんですか…。」
「なんだかんだと聞かれたら?」
「やめろ、消されるぞ。」
「あぼーん。」
話が進まない。
「すんません。」
「誰に謝ってんだ?」
「うーん、偉い人?」
「まぁ、いいけどさ。」
女はどんぶりを洗って戻ってくると、ジェノスに向かい合い正座した。
そして右手を真上に掲げ、言った。
「わたくし、ミヨジナナシです!多少売れっ子小説家!サイタマのはとこ!サイタマの生活費の3割と残りの7割を支えております!」
「うるせぇ!まだ9.5割だぁ!」
サイタマの微妙な訂正が部屋に響いた。