短編とか
□とあるサポート科の開発記録
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「ナナシっておとなみたい!」
幼い頃から言われたそれは、ままごとでの一言だった。
おとな=おかあさん、だった私は「わたしっておかあさんみたいなんだ。」と思った。
周りのおとなの真似を続けていたら、どうやら個性にも影響したのか『Mama's Scolding(ママのお叱り)』とか言うなかなか面白い個性になった。
また、おとなみたいになろうと行動した結果、ママ離れできない男の子に好かれることが多くなった。
きちんとママ離れさせて『卒業』させていると、周りの女子からは「工場長」と言われるようになった。
もっと可愛いあだ名がいい…。
そんなこんなで、私は今、同じクラスの男子に声をかけられ、空き教室にきていた。
「で、話したい事とは何かな?」
「あー、何ていうか、その…。」
「君は考え込んでしまうきらいがあるからね、簡潔に頼むよ。」
私が急かすと、彼は覚悟を決めたのかいつもより大きな声を張り上げた。
「お、俺と別れてほしい!」
「…おや、なるほど。」
どうやら、彼と私は付き合っていた『ことになっていたらしい』。
「俺、隣のクラスの女の子を好きになってしまったんだ!勝手なことを言ってアレなんだけど…その…。」
「図書委員の女の子だろう?彼女はおっとりしてて気長な子だからね。君の話もゆっくり聞いてくれるだろう。」
「へ。」
「だが、男の子なら…いや『彼女を格好よくリードしたい』なら、ズバッと意見をいうことも大切にしたほうがいいね。」
「えっ。」
「君の『色々考えすぎて口ごもってしまう』ところは大分解消されたみたいだからね。」
だから、『卒業』だよ。
私の言葉が理解できないのか、ポカンとする彼の肩を軽く叩いた。
「さぁ、私の記憶では図書館の彼女はそろそろ当番が終わる頃だ。仲良くなりたいなら、今すぐ下駄箱に向かうことをお勧めするよ。」
それじゃあ頑張りなさい。
私はそのまま彼を残して教室をあとにした。
彼はどうするだろうか。
彼のことだから、教室を飛び出して…忘れ物を取りに戻って…走って…廊下を走ってはいけないというのに…最後に髪を整えて…そして。
「ナナシ。」
「…おや、鋭児郎。」
「…またかァ。」
「どうやら、また『フラれてしまった』ようだ。」
肩をすくめる私を見て、鋭児郎は小さくため息を吐くと、私の眉間を指で押してきた。
「眉間、皺よってんぞ。」
「おや、これはすまない。感慨深くてね。」
私が跡が残らないように眉間をさすっていると、鞄が目の前に現れた。
鋭児郎が差し出している可愛げのない指定鞄は、どうやら私のものらしい。
「帰ェんぞ。」
「待っていてくれていたのか。ありがとう。」
「別に待ってた訳じゃねェよ、たまたまだ。」
「なるほど。では、その偶然に感謝しなければ。」
そう言うと、鋭児郎は勝手にしろと言わんばかりに、どんどん先に歩いて行ってしまった。
待っていてくれたのではなかったのか?あ、いや『たまたま』。
小走りで追いかけると、鋭児郎は止まって待っていてくれた。やはり良い奴だなぁ。
「しっかし、まぁアイツらも何でナナシと付き合っていると勘違いするんだか。」
「私は全力で彼らのサポートをしているつもりだったが。」
「だよなァ。」
付き合っていると勘違いするのが彼らの特徴でもあり、ダメなところでもある。
他の人たち(主に学校の女性たち)は私がそういう『特技』だと知っているので、トラブルが起こらないのが幸いである。
「ところで肉くいてェな、肉。」
「ところでところで、君は雄英高校の試験勉強を私とするのではなかったか?」
「げ、覚えてたか。」
「覚えているさ。君の『個性』がありながら、勉強で受験に落ちたら目も当てられないからね。全力でサポートさせてもらうよ。」
「お手柔らかに頼むぜ…。」
「それは君次第と言ったところか。」
2人はそんな話をしながら影を伸ばして歩いて行った。
結田付中学3年のある秋の日の出来事であった。