短編とか
□とある穴熊寮生の日記
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「大変だっ!!!」
「ごふっ!」
「シリウス、大丈夫!?」
ミートパイを口に入れた瞬間に肩をつかまれ、息が詰まり変な声が出た。
つかんだのは我らが友人のジェームズ・ポッターだ。
秀才かつ勇猛果敢なグリフィンドール生らしいジェームズは、同じグリフィンドール生のリリー・エバンスにご執心だ。
今のところ結果が見えているようには見えないが。
先ほど、リリーに会いに行ってくるよぉ!とスキップしそうな勢いで去って行ったはず。
汚れた口を拭いながら、ジェームズが指さす方を向くと、エバンスが見知らぬ男と話しているのが見えた。
フードの色からすると、ハッフルパフか。他の寮にしても見ない顔だから上の学年だろう。
男の顔は見えないが、エバンスの表情を見る限り、かなり親しげな雰囲気が伝わる。
思わずジェームズの肩に手を乗せて言った。
「まぁ、残念だったな。」
「ちょっとぉ!?まだ付き合ってると決まったわけじゃないだろ!?」
「…うーん、でも友人にしてはやけにフランクじゃない?」
「…僕もそう思う。」
リーマスやピーターにまで追撃され、ジェームズは落胆したように見えたが、すぐに立ち直ると、
「直接、聞いてくるよ!」
と、二人の方へ走って行ってしまった。
「あーあ、行っちゃった…。」
「さ、流石グリフィンドール…?」
「アイツと一緒にしないでくれ。」
*****
「リリー!この男とどういう関係なんだい!?」
「え!?」
「…あぁ?お前こそ誰だ。」
久しぶりにリリーとの交流を果たしている中、突然黒髪の癖毛の男がリリーとの間に入って、此方に指を指してきた。
人を指さすなんて失礼な奴だな。
リリーは突然のことで驚いていたが、誰か分かるとキリリと眉を吊り上げて言った。
「ちょっとポッター、邪魔よ!」
「あぁ、リリー!大丈夫さぁ、こんなことで僕らの愛は崩れたりしない!」
「元から存在しないわよ!!」
「怒った顔も可愛いけど、笑ってくれた方が嬉しいなぁ。」
「アンタがいなくなったらね!」
おぉ、すごくリリーが怒っている。
俺もセブルスもチュニーもこんなに怒らせたことはないぞ。
二人ともびっくりするだろうな。俺も今びっくりしている。
言い争いというよりは言葉の一方通行を続ける二人の間に立ち、リリーの頭を撫でる。
女の子はそんな乱暴な言葉使いをしてはダメだよ。
黙って見つめただけだが、通じたようでムスッとしながらも口を閉ざした。
うんうん、リリーは今も素直でいい子だわ。
そんな俺たちをわなわなと見つめる男が一人。
「な、何なんだい、君は!僕のリリーに!!」
「…なぁ、ポッターだったか。」
ギロリと睨みつけると、冷や汗を流しながらポッターは一歩後ろに下がった。
悲しいけど、こういうとき役に立つな・・怖い顔。
リリーを庇うようにして前に立つ。
俺より頭一つ小さいポッターは、それでもグリフィンドール生らしく食って掛かるような視線を向けた。
「…リリーはお前のものじゃねェ。」
「何!」
「ついでに言うと俺のものでもねェ。」
勝手に人をモノ扱いしてんじゃねェよと毒づくと、ポッターはハッとした後、若干すまなそうな表情で俺の後ろにいるリリーを見た。
分ればいいんだ、分れば。お互いを知り、理解し合えば物事は大体うまくいく。
うんうんと内心うなずきながら、俺はポッターに右手を差し出して言った。
「ナナシだ。ナナシ・ヴィキング。」
「ジェームズ・ポッター。」
「リリーと俺は幼馴染で兄妹みたいなもんだ。寮は違うが、まぁよろしく頼む。」
「…こちらこそ。」
幼馴染で兄妹、の発言の時にジェームズが少し嬉しそうな顔をした。分りやすいやつだな。
握手をした後、こっそり「リリーに謝っておけよ」と何か言いたげな表情のジェームズに伝えた。
リリーにはまた別の機会に会うことを伝え、俺はさっさと二人と別れた。
自寮のテーブルに戻ると、友人がいたので向いの席に座った。
「よぉ、ベン。」
「おはよ、ナナシ。何かあった?」
「ジェームズ・ポッターに会った。」
「え!あの話題の?なんで?」
「リリーと話してたら喧嘩売られた。」
あー苛めてると思われたのか、とベンがあっけらかんと言ったので、黙って頭に手刀を入れた。
痛いよと騒ぐベンだが、否定するつもりは全くないようだ。
「そんなに怖い顔しながら女の子に話しかけてたら、そう思われても仕方がないよ。」
「怖い顔をしていたつもりはないが。」
「ほら、眉間に皺よってるよ。」
「誰のせいだ、誰の。」