短編とか

□2年:再会とライバル視
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俺はシリウス・ブラック。
スリザリン輩出一家の長男で、グリフィンドール生だ。
家族からは毎日吠えメールが届くが、無視して今日もミートパイの前の席に座る。
リーマスとピーターが近くに座るのもいつものことだ。
挨拶もそこそこに、俺は一番大きなアツアツのミートパイを掴んでかぶりついた。



「大変だっ!!!」



「ごふっ!」


「シリウス、大丈夫!?」

「ジェームズ、おはよう。」


ミートパイを口に入れた瞬間に肩をつかまれ、息が詰まり変な声が出た。
つかんだのは我らが友人のジェームズ・ポッターだ。
秀才かつ勇猛果敢なグリフィンドール生らしいジェームズは、同じグリフィンドール生のリリー・エバンスにご執心だ。
今のところ結果が出ているようには見えないが。


先ほど、リリーに会いに行ってくる!とスキップしそうな勢いで去って行ったはず。
汚れた口を拭いながら睨みつけると、ジェームズがわなわなとある方向を指さした。
ジェームズが指さす方を向くと、エバンスが見知らぬ男と話しているのが見えた。

フードの色からすると、ハッフルパフか。
他の寮にしても入学式に見なかった顔だから、上の学年だな。
男の顔は見えないが、エバンスの表情を見る限り、かなり親しげな雰囲気が伝わる。


ここまで推測して、思わずジェームズの肩に手を乗せて言った。



「まぁ、残念だったな。」


「ちょっとぉ!?まだ付き合ってると決まったわけじゃないだろ!?」

「…うーん、でも友人にしてはやけにフランクじゃない?」

「僕もそう思う…。」



リーマスやピーターにまで追撃され、ジェームズは落胆したように見えたが、すぐに立ち直ると、
「直接、聞いてくるよ!」
と、二人の方へ走って行ってしまった。



「あーあ、行っちゃった…。」

「さ、流石グリフィンドールってやつ…?」

「アイツと一緒にしないでくれ。」



先ほどの衝撃で無残な姿となったミートパイを見つつ、俺はため息を吐いた。





*****





「リリー!この男とどういう関係なんだい!?」

「え!?」

「…ん?リリー、あー、知り合いか?」




久しぶりにリリーとの交流を果たしていると、突然黒髪で癖毛の男がリリーとの間に入って、此方を指さしてきた。
人を指さすなんて、失礼な少年だ。

リリーは突然のことで驚いていたが、誰か分かるとキリリと眉を吊り上げて声を荒げた。



「ちょっとポッター、邪魔よ!」

「あぁ、リリー!大丈夫さぁ、こんなことで僕らの愛は崩れたりしない!」

「元から存在しないわよ!!」

「怒った顔も可愛いけど、笑ってくれた方が嬉しいなぁ。」

「アンタがいなくなったらね!」



おぉ、すごくリリーが怒っている。
俺もセブルスもチュニーも、この赤色の天使をこんなに怒らせたことはない。
二人が見たらびっくりするだろうな。俺は今びっくりしている。

何だ何だと他の生徒が注目し始めている。
これ以上は周りの迷惑になってしまうので、止めるか。
言い争いというよりは言葉の一方通行を続ける二人の間に立ち、リリーの頭を撫でる。

乱暴な言葉は使うのは自分の為にならないよ。
黙って見つめただけだが、通じたようでムスッとしながらも口を閉ざした。
うんうん、リリーは今も素直でいい子だ。

そんな俺たちをわなわなと見つめる男が一人。



「な、何なんだい、君は!僕のリリーに!!」

「…お前、ええと、ポッター?」



そこまで睨みつけたつもりはないのだが、冷や汗を流しながらポッターは一歩後ろに下がった。
静かになってくれて都合が良いけど、悲しいな…この怖い顔。

リリーを庇うようにして前に立つ。
俺より頭一つ小さいポッターは、それでもグリフィンドール生らしく食って掛かるような視線を向けた。



「…リリーはお前のではないぞ。」

「何!」

「当たり前だが、俺のものでもないからな。」



人をモノ扱いしてはいけないと言うと、ポッターはハッとした後、若干すまなそうな表情で俺の後ろにいるリリーを見た。

分ればいいんだ、分れば。お互いを知り、理解し合えば物事は大体うまくいく。
うんうんと内心うなずきながら、俺はポッターに右手を差し出して言った。



「ナナシだ。ナナシ・ミヨジ。」

「ジェームズ・ポッター。」

「リリーと俺は幼馴染。兄妹みたいなもんだ。寮は違うが、よろしく頼む。」

「…こちらこそ。」



幼馴染で兄妹、の発言の時にジェームズが少し嬉しそうな顔をした。分りやすいやつだな。
握手をした後、こっそり「リリーに謝っておけよ」と何か言いたげな表情のジェームズに伝えた。
リリーにはまた別の機会に会うことを伝え、俺はさっさと二人と別れた。

自寮のテーブルに戻ると、友人たちがいたので向いの席に座った。


「二人ともおはよう。」

「…はよ。」

「おっはよー、ナナシ!お疲れ様って言っておこうか?」

「あ?なんかあったのか?」

「あれ、知らないの?ローズちゃんったら遅れてる〜。」

「次言ったらてめぇのデザートにマーマイトぶっ掛けるぞ。」

「やめてよー。ナナシはあのジェームズ・ポッターと幼馴染のエバンスをかけて決闘したんだよ。」


「決闘だ?おい、ナナシ。何で僕を呼ばねぇんだ!」


「決闘はしていない。話してただけだ。」

「拳で?」

「言葉で。」




つまらん。とローズは山盛りの蜜糖ケーキを口いっぱいに頬張り、ジョッキいっぱいのホットチョコレートを飲み干した。
周りに広がる甘ったるい匂いに頬がひきつる。
隣に座っているハドールも笑顔だがややぐったりしている。
視界の暴力から目を逸らしつつ、ハドールが話しかけてきた。



「ジェームズ・ポッターたら無粋だよねー。未来のお義兄さんに向かって。」

「誰がお義兄さんだ。」

「え?だってエバンスが『スリル先輩からももっと積極的になるように言ってください。二人ったら、
せっかくクリスマス休暇に二人っきりにしてあげたのにチューの一つも…』って。」


「リリー!!!!!!!」



俺はハドールの言葉を最後まで聞くことなく、グリフィンドールの席まで駆け込んでいった。
 

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