短編とか

□とある審神者の戦績書
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「主、主命をどうかこの長谷部に。」


どうしたものか。


最近鍛刀により加入した、へし切長谷部は本日の近侍に拝命した後から、ずっとこんな調子だ。
朝の食事の時もじっと見つめてきていたし、食後にお茶を淹れようかと立つとすぐにどうしたのかと尋ねてきて、話すと代わりに取ってきてくれる。


「主?」


……有り難いのだが、有り難いのだが、非常に動きづらい。
何をするにしても報告しなければならない感じが落ち付かない。
怖くてトイレに行くと言い出せない。


「主……。」


そもそも近侍は私が言い出したことではなく、演練先で他の本丸の審神者が行っているところを見て、
刀剣男士からの要望により、やり始めたばかりの新内番であることから、
審神者である私自身が、近侍をどう扱ってよいものか今一つ掴めていない。


黙り混んでいるとへし切り長谷部がポツリと呟いた。


「……待てと言われれば何時までも待ちましょう。……迎えに来てくださるのであれば。」

「は、長谷部……。」


捨てたつもりはないのだが、なぜそのような捨て犬の様な目で私を見る!?
あれ?!私が悪いのか!?
何か……何か主命を言わなければ……。
謎の使命感の元に私はサングラス越しに部屋を見渡し、視界にある物を捉えた。

私は机の上のペン立てに刺さっていたソレを差し出しながら言った。

「……長谷部、耳かきをお願いしてもいいですか?」






わーーーーーーー私は付喪神に何ということを!!!!穴に埋もれたい!!!鶴丸師匠ーー!!!






「あ、いや、えと……今のは、」


とりあえず頭を冷やすために池にでも飛び込もうかと思った瞬間、ブワッと桜吹雪が舞うような神気がした。
そして気がつくと、私はニコニコした長谷部に膝枕されていた。




これは、もしかしなくても、




「さぁ、主。お好きな方からやって差し上げます。」




耳かきだーーーーーーー!!!!




表情が出にくくて助かった。
そうでなければ今頃、冷や汗でびっちょりになっていることだろう。
誉桜を背後に纏わせている長谷部に今更撤回することはできず、大人しく背を向けてお願いすることにした。
審神者は度胸!審神者は度胸!



「あれ?主。長谷部君に耳かきしてもらってるの?」

「ハイソウデス。」

「え?何どうしたのそのしゃべり方?」

「ナンデモナイノダヨ。」


光忠さんや、深く触れないでくれ……。
審神者のサングラスの奥の湿気が凄いのと、緊張で筋肉痛になりそうな事から察してほしい。




「主。ふぅー……どうです?すっきりしました?」

「……流石長谷部。」

「有り難き幸せ。」


確かに耳はすっきりはしたけど、敵を見るかのように耳かきをされるのは非常に心臓に悪いから!
そう言おうと思ったが、主命を果たせて嬉しそうな長谷部を見て、まぁ長谷部が喜んでるからいいか、と私は考えることを放棄した。
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