短編とか
□とある審神者の戦績書
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「よろしく頼む。」
三日月宗近、その輝かしい神気に目が眩む。
うっ……と一歩後ずさると、訝し気な顔で今日の近侍の宗三が横目で見ている。
「さ、サングラスサングラス……。」
「サングラスなら、もう付けてますよ。しっかりなさい。」
「は、はいっ!」
宗三が丸まった私の背をピシャリと言葉と共に叩いたことで、私の背筋と態度を正した。
それまでは辺りを見回していた三日月宗近だったが、背を叩かれているこちらを見て、弧を描くように微笑んだ。
「おや、主が審神者という者か?」
「はい!どうぞお好きなようにお呼びください。ようこそいらっしゃいました、三日月宗近様。」
「よいよい、俺のことも好きに呼ぶが良い。」
「は、はい!では、三日月さんと……。」
「よいぞ、よいぞ。」
恐々と手を差し出すと、細くも力強い握手が返ってきた。
何とかふぁーすといんぷれっしょんは悪くないものになったようだ。
「それじゃあ、俺っちが本丸について案内するぜ!」
「よろしくお願い致します、薬研。」
「いいってことよ!それじゃあ、付いてきな。」
「よろしく頼むぞ。」
二人が廊下の曲がり角に消えていった後、漸く息を吐くことができた。
「……ふぅ。」
「まさか鍛刀で来るとは思いませんでしたよ。」
「そうですね、ちょっとした気分転換のつもりだったのですが…。」
いつも通り、審神者として男士達の要望を叶えたり、任務の報告書の作成を行っていた。
休憩中に媒体を使用し検索していた時、『好きな曲を聞きながら鍛刀するとレア刀が来るらしい』という情報があり、
資材も余裕があるし、久しぶりに大きな鍛刀でもしてみるかとソーラン節を流しながらハイハイッ!と鍛刀した結果がコレである。
「それにしても貴方。いくら天下五剣といっても、あんなに緊張していたら舐められますよ。」
「いや、舐められるとかそもそも神様に対してそんな……。」
「だから、そんな態度が他の審神者に対しても調子にのせてしまう原因だと言うのですよ。」
「はぁ、すみません。」
どうやら宗三は、この間見た演練相手が私の連れてきたメンバーを見て鼻で笑ったことが気にくわないらしい。
曰く、「あの審神者は霊力が少ないから霊格の低い刀剣しかいないのだ」と言っていたそうだ。
メンバーは宗三以外は短刀だった気がする。
短刀たちも練度が上がってきたので、一度経験させる目的で連れてきたのだが、申し訳ないことをした。
ただ、そちらの審神者は顕現したばかりのレア刀剣男士に並の刀装しか持たせていなかったので、特上投石部隊で勝利は頂いておいた。
「貴方を下に見ている審神者でも、三日月宗近を得ていない者は多いのです。貴方の運と霊力にもっと自信を持ちなさい。」
「は、はい!!」
「あと、脅しに五虎退を使うのは止めてあげなさい。」
「バレてましたか。」
「霊力を隠す前に殺気を隠しなさい。」
演練の後、五虎退を連れて挨拶しに行った時は近くに宗三はいなかったはずなのに……。
ちょっと、審神者同士でも演練(物理)しましょうや、って声かけただけなのに、ブルブル震えちゃったんだよなぁ。
まぁ、その審神者にはその日のうちに審神者と短刀の涙なしでは語れないハートフルオススメ創作小説を送り付けておいたので、今頃考えも変わっているだろうて。
「三日月宗近が鍛刀できたんですから、早く江雪兄様を鍛刀してください。」
「うっ……。」
やはり、そう来たか。
粟田口の長男刀、国広の長男刀、虎徹の長男刀が顕現されている本丸に、未だ左文字の長男刀はいない。
小夜が一期を見て言いたげな顔をしているのを見てなんとかしてやりたいとは思っているが、鍛刀はどうにも運としか言いようがない。
「お小夜が寂しがっているのですよ?」
「す、すみません……。」
次男刀からのプレッシャーが凄い……。
当分、鍛刀は基礎任務分でいいかと思っていたが、撤回する必要がありそうだ。
次の日、石切丸と早朝から祈祷を行ったお陰かどうかは分からないが、無事江雪左文字を鍛刀で顕現することができたのだった。