短編とか

□とある審神者の戦績書
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広い屋敷に、使いの狐であるこんのすけが一匹と人間が一人いた。
人間は、古臭い麦わら帽子を被り、その下には日よけのためか、大きな手ぬぐいで顔を隠すように被っている。

こんのすけは人間の顔を窺うように見上げたが、土で汚れた緩い作業着と異様なほど合っていないサングラスをかけている為に、性別も表情も今一つ掴めなかった。
ただそんなに日に焼けていない肌を見るに、そこまで歳はいっていないだろうと、こんのすけは思った。

催促するかのように人間が口を開いたことで、こんのすけは、己の仕事はこの人間の正体を暴くことではなく、審神者としてこの人間が務められるようにすることであったと、思い出した。

「それでは、審神者様には初期刀を選んでいただきます。」
「初期刀。」
「歴史改変軍と戦うには、己を主と従ってくれる刀剣男士がいなければ始まりません。」

先ほどお渡しした文(ふみ)に4人の刀剣男士の名が書かれております。
彼らの中で一振り、選んでいただきます。

こんのすけに言われ、人間は手元の文を見た。
4振りとも歴史上、有名な刀剣であることは明らかであった。
眉を顰め、小さく呻ったかと思うと、審神者は札で賽子(さいころ)を取り出すと床に放った。


「参…陸奥守吉行で。」
「…分かりました。それでは任務についてはその都度、私めがお伝えしにまいります。」



小さな爆発音とともにこんのすけはいなくなっていた。
審神者は先ほど紹介された鍛刀部屋へ向かった。
そこには既に一振りの刀が鎮座していた。
審神者は小さく呟き、刀に札を置くと、光が辺りを包んだ。

光の中から人影がゆらりと立ち上がる。


「わしは陸奥守吉行じゃ。おんしゃが審神者ちゅーもんがか?」

「どうも、貴方の審神者です。よろしく。」

「んん?他の刀が見当たらんちゅーことは、…わしがいっとう最初か!?おんしゃあ、わかっちょるのお!」

「ええ、まぁ、ありがとうございます?」



……賽子で決めたとは言えない。

言い訳しておくと、刀剣男士達を軽んじている訳ではなく、悩んだ末に決めかねたからである。
断じて後日に、初期刀を選んだ理由を聞かれて他の初期刀候補に反感を買いたくなかったわけではない。
ただし、選ばれた初期刀が非常にショックを受け、その機嫌を直すために奔走する羽目になったということだけは記載しておく。
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