短編とか

□とある隊士の私小説番外2
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「・・・寝坊した!!」



外の明るさに飛び起きた俺は、怒り狂う副長を想像して血の気が引いた。
早朝の鍛錬はあきらめたことにして、とりあえず午前の内に終わらせなければならない書類だけでもやらないと・・。

朝飯はその後だな、とボヤキつつ、布団をたたもうとしたときに、初めて違和感に気が付く。
布団を掴んでいるのは、幼さが残るやわらかな手だった。




「のわぁぁああ!?」




目線がおかしい。
というより、知らない部屋だ。
書類の山があったところには子供向けの本が積み重なっており、俺の制服が畳んであったところには子どもの着物が並んでいる。
そして、枕元にあったはずの刀と短刀は短い木刀になっていた。



「ドッキリ・・にしては身体がおかしい。」




俺は顔をぺちぺちと叩いたが、目が覚める気配はない。
あれ?俺、アポトキシンでも飲んだ?頭脳は大人みたいな?それともまた沖田隊長か?

考え込んでいると、さっきの叫び声が聞こえたのか、誰かがこちらに走ってくる足音が聞こえた。
自分の刀が見あたらないので、咄嗟に木刀を構える。
襖を開け覗き込んできた男は、俺の様子にキョトンとしながら口を開いた。




「どうしたナナシちゃん?怖い夢でも見たの?」

「・・・き、」

「き?」

「局長が若返ったぁあああ!!」





障子を開けたのは局長だったが、俺の知っている局長ではなかった。
顔つきは俺の知っている局長だが、髷をしていた記憶は俺にはないぞ。
ずざざ、と後ずさると局長は訝しげな顔をしながら言った。




「まだ寝ぼけてるんだったら、ついでに顔でも洗ってきちゃいなさい!」

「・・・はい。」




・・・とりあえず、様子を見るしかないか。
諦めて局長・・今は近藤さんとしよう、の言うとおりに顔を洗いに洗面所へ向かった。
何時もの癖で右に行こうとしたら「逆だよ!」と呆れながら言われてしまった。
しょうがないじゃないか、知らない家の中なのだから。









「・・・俺、若。」


顔を洗い、置いてあった綺麗なタオルで拭く。
サッパリしたが、目が覚める様子はない。

年齢不相応に疲れ切った表情を浮かべる7〜8歳程度の子どもは、どう考えても昔の俺だ。
試しにイーっとしかめっ面をしたが、鏡の幼い俺も同じ顔をしていた。




「はぁ・・どうなっているんだ・・。」




やるせなさに頭を抱えてしゃがみこむと、後ろから「何してんだ。」というぶっきら棒な声が聞こえた。




「ふく・・・・誰?」

「寝ぼけてんのか、アホ。」




黒髪ツリ目のポニーテール少年は呆れた目で俺を見ると、顔を洗ってさっさとどこかへ歩いていってしまった。
・・・誰だ、アレ。
声は副長そっくりだったけど・・・え、マジ?






「・・・だー、訳が分からん。」




あの後、最初にいた部屋で状況を確認していた。
俺の姿は7〜8歳で、局長や副長も若返っていることからおよそ10年ほど時代が遡っているようだ。
建物の広さや剣道場があり、確か局長たちは真選組を作る前は武州の道場で過ごしていたとのことなので、ここは道場で間違いない。


つまり、俺は俗に言うタイムスリップしたことになる。
しかも普通のタイムスリップじゃなくて・・・パラレルワールド、平行世界ってやつにいるようだ。
しかし、俺が何故そのパラレルワールドにいるのかは、謎のままだ。








「じゃあ、いただきます!」

「いただきます。」

「・・いただきます。」

「・・・・い、いただきます。」



俺らと局長から師匠と呼ばれているお爺さんの四人で食卓を囲む。
ちらりと横目で隣を見ると、さっきの副長らしき人はもくもくと食事を口に運んでいる。
但し、そのご飯の上には黄色のアレが大量にかかっている。
・・・この人、絶対副長だ。




「どうした、ナナシちゃん。今日は全然箸が進んでないぞ?」

「いやあ・・なんでもないですよ。」

「ほら!俺に丁寧語なんていままで使わなかったのに・・反抗期?!勲ショック!」

「いや、寧ろ反抗期だったら丁寧語使わないだろ。」




まずい・・どう話したらいいか分からないぞ。
これ以上怪しまれる前に調べておかないと・・。
俺はおかずとご飯をかきこみ、咀嚼する。今回ばかりは行儀は無視だ!
手を合わせ「ご馳走様」といった後、食器を片付ける。




「ちょ、ナナシちゃん!どこ行くの?」

「ちょっと外!夕方までには帰ってくるから!」

「知らない人にはついていっちゃだめだよー!」

「はーい!」




あー、局長にタメ口しちゃったよ。
がしがしと髪をかき、玄関に出ている小さな靴を履く。
外に出ると青空が広がっていた。
日はそんなに高くない、夕方までやれることは多いだろう。





「・・まずは場所を把握しよう。」




青空はとても綺麗だが、それは天人の船が一つも飛んでないことを表す。
帰れないんじゃないかという一抹の不安が過ぎったが、首をふり誤魔化して高台目指して俺は走りだした。
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