とある隊士の私小説

□第三話:山高きが故に貴からず
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銀さんと別れ、立っているのはあの有名な真選組の門前だ。
デカイ門の向こうが俺の新しい職場か、と俺は幼子のように目を輝かせてしまった。
今の俺を見たら、真選組に憧れて上京してきた田舎者に見えたことだろう。
まぁ、「憧れて」以外はほぼ合っているのだけれども。



「えーと、とりあえず入ればいいのかな?」


なんでか知らないけど、門の近くには人っ子一人もいない。
普通、こういう所って見張りみたいな人がいるような気がするんだが。


「ま、いいか。…おじゃましまーす。」


一歩。

二歩。

三歩。

四歩目に入ろうとしたとき、ガチャリという金属音が背後で鳴った。



「のこのこ屯所に入ってくるなんざ、てめーどこの攘夷志士でィ。」



ギギギとぎこちなく後ろを振り返ると、どす黒い笑みを浮かべた青年が、俺にバズーカを構えて立っていた。
…バッ、バズーカァ!?




第三話『山高きが故に貴からず』




「えっ、ちょ、誤解です!違います、そういうのじゃないです!」

「分かってるって、ドリー。いつもお前はそうやって誤魔化してるけど、本当はテロリストなんだってな。」

「全然分かってないし、つかドリーって誰!?」



あわてて誤解を解こうとするも、青年は俺に向かってバズーカを今にも打ちそうな勢いだ。
穏便に済ませたかったんだが、仕方がないか。



「だから、危ないですって、ば!」

「なっ!」


青年に足払いをかけ、手の力が抜けた隙に、バズーカを蹴り飛ばす。
ふぅ、と一息つこうとした瞬間、視界の端でギラリと反射した何かを思わず短刀で受け止める。

金属がぶつかり合う音が響いた。

何かと思えば刀だった。しかも真剣。
持ち主を見ると、刀以上に目がギラギラしてる。
つか、瞳孔開いてるよ!何この人、怖い!



「ヒィ!殺す気ですか!?」

「攘夷志士なんだからあたりめぇだろ。」

「違いますって!俺は攘夷志士じゃないです!!」

「はぁ?じゃあ、てめぇは一体・・」



「油断大敵ですぜィ。」

「「どぉわああ!!」」



本能的に怖い人の刀を弾きながら、間合いを開けると、
俺と怖い人の間に、青年の真剣が振り下ろされた。


え。



「なななな、仲間ごと斬る気ですか!?」

「てめぇ総悟!!俺ごと斬るつもりだったな!?」


「いやですぜィ、土方さん。俺はいつでも下克上したい気ムンムンですぜ。」

「ムンムンって何だ、満々だろうが!?」



青年と怖い人は、バチバチと漫画のように火花を散らしている。

…逃げよう。
やっぱり俺に真選組なんて無理だったんだ。
大和さんにも事情を説明すればきっと何とかしてくれるに違いない。
そうだ、そうしよう。



「お、お邪魔しました!!」

「あ、待て!!」



怖い人が叫ぶが、無視して走り出す。
入り口は二人で塞がっていたから、多分有るであろう裏門を目指すことにした。

しかし、急いで走るあまり、曲がり角の先に人がいることに気づかずぶつかってしまった。



「いたた…。す、すみません!」

「いてて…あれ?君は誰だ?」

「あーと、大和旅館から来た山崎と…ってやばい!!」

「え?もしかして…。」



背後から二つの殺気!
やばい、さっきの人たちだ!
思いっきりぶつかったせいで、さっきのようには逃げれないし・・・どうする?



「てめーここにいやがった…って近藤さんっ!ちょ、総悟待て!」

「くらえーおれのーきゅうきょくばずーかぁー!」



「「はっ?」」




屋根を見上げると、いつの間に登ったのかさっきの青年がいて、こちらにバズーカを撃ってきていた。

こちらにバズーカを撃ってきていた。

…まじか!?こっちには俺以外にも人がいるっていうのに!
逃げる時間は無い…仕方ない。



「屈んでください!」

「えっ…?」



俺はそれだけ伝えて、弾に向かって短刀を構えた。
大事なのはタイミングとセンスだって、大和さんも言ってたのを思いだせ。

…さん…に…いち。

今!



「どぉおおりゃあ!!」



俺は叫びながら、バズーカの弾を誰もいない方向の空へ打ち返した。
弾は甲高い金属音をたてて、空へと飛んでいき、そして爆発した。



「…ふぅ。」



俺は弾の破片が飛び散るのを眺めながら、息を吐いた。

そして、先程の青年と怖い人と男の人が俺を取り囲んでいるのに気が付いた。
青年と男の人は俺の事をキラキラした目で見ているが、一方怖い人はライオンも逃げ出しそうな睨みを利かせていた。
…帰っていいかな。








その日の夜、俺は大和さんに電話をした。



『・・だーっはっは!初日から面白ェことになってんじゃねーか。』

「面白くないです!その後も大変だったんですから!」



あの後、応接室に通された俺は局長に何度も謝られた。
なんと、ぶつかってしまった男の人は真選組局長だったのだ。
自分の部下が迷惑をかけたと何度も頭を下げてきたので、なんだか申し訳なかった。

俺が本当に謝ってほしかったのは、あのこっちの話を全く聞かない二人だったのだが、
怖い人、ちなみに副長だった、はギラギラした目で睨み付けるだけでムスッとしてたし、
青年、ちなみに一番隊隊長は、さっきの出来事なんて忘れたようにいい笑顔だった。



『でもまぁ、いい印象ついたんじゃねーか?』

「まさか。攘夷志士だと思われたんですよ?」

『それじゃなくて、俺のコネで入った女子隊士じゃねぇってことは伝わったんだろ?』

「…まぁ、それはそうですけど…。」



夕方の集会で俺のことが紹介されたのだが、皆、昼間の事件は耳にしていたらしく、
解散になった途端、質問攻めにされた。
すべて事実だと言うと、尊敬のまなざしを受けた。
あの二人を相手に逃げ回るなんて、相当実力がないと無理だから、だそうだ。

正直、女だからともっと馬鹿にされるかと思っていたので驚いた。
まぁ中にはまだ馬鹿にしている人もいるが。



『そういえば、オメーの兄ちゃんはどうだったよ?』

「あれ?知ってたんですか?」

『まっつぁんから聞いてたんだよ。』



ちなみにまっつぁんとは、松平片栗虎警察庁長官のことだ。



「なるほど。…兄さんとはさっきまで話をしてましたよ。」




それはそう、紹介された後に先輩たちからもみくちゃにされている時だった。
俺は気づかなかったが、今帰ってきた隊士がいるらしい。

挨拶しないと、と思ったのは社会人として当然だと思う。
横で誰かがその人も同じ「山崎」なのだと教えてくれた。
…ということは?



「ほら、コイツが山崎だよ。新人山崎。」


そういわれて振り向くと、「山崎」がいた。
そう、俺と同じ山崎だ。



「兄さん久しぶり!」

「あれ?疾風じゃん、久しぶり!」




「「「……えええええ!!!!」」」





皆さん気づいているとは思うが、俺、山崎疾風は、山崎退の妹である。

手紙でやり取りはしていたが、会うのは一年ぶりぐらいだ。
それでもこれだけ淡白なのは、俺たち兄妹だからなのだろうか。




「お前ら、本当に兄妹なのかよ!」

「確かに…似てなくもないか。」

「うわっ、リアル妹羨ましい!」



最後に何か変な発言があったが、触らぬオタクになんとやらだ。







「…てな感じです。」

『そうか、元気そうでよかったな。』

「そうですね、これからは上司ですし。」

『まぁ、人生色々経験だ。頑張れよ。』

「はい!また電話しますね。」

『ああ、おやすみ。』



兎に角、俺と兄さんは今日から同じ職場で働くこととなった。
ちなみに、俺の所属は初めは平隊士として色々な仕事を学ぶが、
最終的には兄さんと同じ密偵として働く予定だ。


とりあえず今日は、


「おやすみなさい。」






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