とある隊士の私小説

□第四話:郷に入っては郷に従え
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「新人山崎ー!」

「はい!」



「新人山崎ー、手伝ってくれー。」

「はいよ、只今!」



「おい、誰かマヨネーズ買って来い。」

「はい、マヨネーズ!…マヨネーズ!?」



俺、山崎疾風。
入隊してから二週間たったが、真選組、特に上司のキャラについていけない。
上はゴリラにマヨにドSときたもんだ。濃いっていっても限度があるだろ。

あぁ、今日もレジのお姉さんに引いた目で見られるのか・・。
お姉さん、俺はマヨラーじゃないんです。





第四話『郷に入っては郷に従え』





「…はぁ。」



俺は書類の束を抱えると再度ため息をついた。
この書類の責任者の判子は副長、つまり先日俺を追っかけ回した、あの怖い人から貰わなければならない。

あれ以来、特に問題を起こした記憶はないのだが、副長はいつも俺を睨みつけている。
瞳孔を開いて睨んでいるので尚一層怖いのだ。



「副長、山崎です。」

「入れ。」



俺は副長の邪魔にならないように部屋に入った。
副長の部屋は生活感がまるでない。
見当たるのは書類とタバコと・・マヨネーズだけだ。

そう。マヨラーな副長の部屋にはマヨが大量に常備されている。
…俺、こんな重度のマヨラー見たことねぇよ。
頻繁に買いに行かされすぎて、どこのスーパーに何のマヨがいくらで売っているか把握できるようになってしまったし。


内心がっくりしながらも、机に積まれている書類の横に持ってきた書類を置く。
やけに今日は書類が多いなと思ったら、ほとんどが苦情や損害賠償請求だった。
またなんかやらかしたんですね、沖田隊長…。



「頼まれていた書類、後は判子だけですので。」

「あぁ。」

「この書類もやっておきましょうか?」

「あぁ。」

「大分たまっているので、吸殻捨てておきますね。」

「あぁ。」



さっきからこの人あぁ、しか言わないな。
それに全然書類も進んでいないし。
そろそろ休憩させたほうがいいから、お茶でも持ってこようかな。
俺は自分の書類を持って、静かに部屋を後にした。




―――
名前:山崎疾風。
政府の重鎮たちに重用される大和旅館の、元従業員。
まだ10代であるが、デスクワークから対テロリスト等の戦闘をもこなしていた。
(通常は従業員は戦闘員と雑務員がはっきり分かれている。非常事態の場合は別。)
武器は刀と短刀が主だが、銃も使えるらしい。
性格は控えめで落ち着いている。比較的冷静で自身の判断でも動けるとのこと。
身のこなしも十分であるため、密偵向きである。




「そして兄に山崎退…か。」




先ほど書類を置いていった山崎、の妹の顔を思い出しながら、兄妹はやはり似るものなのかと土方は思ったが、
ごく身近にいる姉弟は、顔はともかく、性格は全く似ていない事を思い出し、考えを無かったことにするかのように首を振った。

ひと月ほど前。
上司からもらった書類を見たときは、女が入ることに大きく反対した。
確かに密偵として男が入れない場所に入ることで今までより多くの情報が手に入るのは確かだが、
だからといって女が入って安全という場所でもない。
寧ろ女だからこそ危険である場所のが多い。

しかしそれでも最終的に入隊を認めたのは、
正直、女がこの男だらけの空間に耐えきれるわけないからと思ったからだった。

しかし、


「すっかり馴染んでやがるな…。」



確かに初めは山崎妹も接し方が分からず、困っていたようだが、
頼まれたら走り、聞かれれば答え、言われる前に行動する、という新人らしからぬ活発さを見せ、
距離を置いていた隊士たちも徐々に話すようになった。

それに先ほど置いていった書類も、言われずとも期限が近い順に重ねてあり、
時には字や日時の訂正も書かれており、デスクワークのできない隊士のフォローをしなければならなかった土方としては大変ありがたかった。



「副長、山崎疾風です。」

「何かあったか?」

「いえ、お茶を淹れたのですがどうでしょうか。」

「悪いな。じゃあ、そこに置いといてくれ。」

「分かりました。」



土方はお茶をすすりながら、もう一度書類を見直していた。
山崎妹のデスクワークの能力は十分分かったが、戦闘としてはどうだろうか。
大和旅館でマルチに働いていたならば、そこそこ期待できるのかもしれない。



「お手並み拝見といこうじゃねぇか。」



俺は煙草に火をつけ、ニヤリと笑った。



「うう、なんか寒気が…。」



風邪でもひいたのだろうか。
あまり体調は崩さない性質だが、最近はバタバタと忙しかったのでもしかしたら負担がかかっているのかもしれない。
副長のせいだとは微塵にも思わなかった俺は、さっさと自室へ戻った。

部屋の中は昨日よりはそこそこ片付いてきて、そこらのマヨラーよりは生活感はあると思う。
ちなみに隣の部屋は兄さんだ。一応女ということで、有難いことに色々気を使ってもらった。



「さて、やるかな。」



書類の束を机の横に置く。
この量なら夕方には終わるだろう。
やりやすそうなものから手をつけていくことにしようかな。





*****





「終わったー。」



思った通り、外を見ると夕日で空が赤くなっていた。
しかし、副長より生活感があるといっても、部屋に足りないものが多い。
急に来たので、必要なものは随時郵送してもらって、必要のないものは捨ててもらう予定だ。
そういえば買い物ついでにこの辺の地理も覚えなきゃいけないし、本とかいろいろ買いたいな。



「まだまだやることはたくさんあるなぁ…。」



ふぅと息を吐き、終わった書類を纏める。
とりあえず、書類出しに行くついでに副長にでもこの辺について聞いてみるか。
副長の部屋へ向かってみると、誰もいなかったので、部屋に戻ろうとしたら局長と会った。
何やら俺をちょうど探していたらしい。

ちょうどいいので副長について聞くと、どうやら副長は見回りに行ってしまったようだ。
まぁ急ぎの書類もないから一旦自室に持ち帰ることにする。



「そういえば、疾風ちゃんも大分ウチの仕事に慣れてきたんじゃないか?」

「ええ、大分。…局長、その疾風ちゃんっての止めません?」

「いいじゃないか、疾風ちゃんは女の子なんだし。でも、嫌なら止めるぞ?」

「…別に構いませんけど。」



ちくしょう、悪気のない笑顔で言われると反論できない。
局長は副長と真逆で人の悪いところなんか見なさそうだよな。
いや、局長が見ないから、副長は見るのかな。
良いバランスってことか。


「そうだ!遅くなったけど、これから皆で疾風ちゃんの歓迎会があるんだ!」

「え、いいんですか?忙しいのに。」

「大丈夫、大丈夫。アイツ等も俺も何かに口実つけて酒が飲みたいのさ。歓迎会っていってもほとんどただの宴会さ。」

「は、はぁ…。」

「とにかく主役がこなけりゃ始まらないから、もう少ししたら大広間に来てくれ。」




また後でな、と颯爽と去っていく局長。
俺はそんな大きな背中に見とれる…ことはなく、あることを思い出し声をかけた。


「局長!!……ズボンのチャック開いてますよ。」

「は、早く言ってよね!!」



いやー、なかなか言うタイミングが無くて。





*****





「コレ、どういう状況ですか。戦場?」



書類を自室に置いてから大広間へ向かうと、そこは戦場でした…。

大広間では酒やつまみが散乱し、野郎どもが酒を飲み交わしていた。
飲み会というよりも、野球の優勝したときみたいになってる。真選組ってプロ野球選手だったっけ?



「お前らー!主役がきたぞー!」

「「おぉー!!」」

「え、ちょ。俺にも酒飲ませるつもりですか?未成年ですよ!」



局長に部屋に連れて行かれたと思ったら、あれよあれよという間に右手には酒が入ったコップが、左手にはさきイカが。
いいのか、警察。未成年の飲酒を取り締まらなくて。



「今日はオメーの歓迎会なんだ!飲め飲め!」

「あ、はぁ…。」



流されるままに俺は宴会の真ん中で酒を飲まされていた。
何故か既に泥酔している局長は、上半身裸で腹踊りしていて、他の隊士は浴びるように酒を飲んでいた。
よ、良い子はマネしちゃだめだぞ!

副長が帰ってきたら、コレはやばいんじゃないか?
だって今いる皆が明日、仕事が休みなわけではないのだろうし。

…ちょっと待て。
名目上は俺の歓迎会、ということは俺にも鉄槌がくだるような気がする。
その前にこの騒ぎを大人しくしなければ。
…どうやって?



「…兄さん、副長から逃げるコツを教えてくれないかな。」

「え?何で?」

「今日を生き抜くために。」



流れに逆らうのではなくて、流れから逃げてみようと思う。
まず初めに襖の陰から見える、怒りを露にした副長からさっさと逃げることにする。
俺がダッシュで部屋から逃げ出した後、副長の怒号が聞こえた。第一歩は成功だ、よくやった疾風!

次の日、副長に怒られて俺の質問の意味が分かったのであろう兄さんにジト目でみられた。
謝っても許してくれなさそうなので、今日の休み時間には兄さんのミントンに付き合ってあげようと思います。
あれ?作文…?





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