短編集
□夏だ! 弾けろ!
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「馬鹿か、お前は!」
マスターの怒号が響いた。
アイクはばつが悪そうな顔をしている。
「スイカ割なんぞ、俺は知らん。とにかく割れたんだからいいだろう」
「いい訳あるかっ」
アイクの特大の『噴火』で砂浜にはクレーターが出来上がっていた。
テントもこっぱ微塵に消え去り、スイカは最早消え失せていた。
「お前は今から海で魚取ってこい!」
「なんだと?」
「夕食の材料集めだ! 本来なら私が出す所だが、お前の罰だ!」
アイクは舌打ちをしながらも海の方へと歩いていった。
海に行く途中、リンクとすれ違った。
アイクの目がリンクと合う。
リンクの目は鬼のようだった。
ぎくりと体が止まるアイクに、リンクは優しい口調で喋りかけた。
「あなたのおかげでバーベキューのセットが潰れてしまいましたよ。いや、大丈夫です。……なんともありませんから……ッ!」
メキリと何かが割れる音がした。
黒い笑みを浮かべるリンクの手には、ねじ曲げられたお玉があった。
「わ……悪い事をしたな……」
「いえ、別に?」
なんでバーベキューでお玉なんだ?
しかし、今のリンクにそんな質問をぶつけてもまともな返事が返ってくるとも思えない。
アイクはぎくしゃくとした動きで海に向かった。
「おい、ソニック」
「ん? なんだ、フォックスじゃないか」
砂浜で砂風呂を楽しんでいたソニックに、フォックスがやって来た。
フォックスは何を思ったか、突然バズーカを用意した。
「What? 何のつもり……」
砂浜に黄色い閃光が走った。
「ギャアァァ!」
宙を舞った後、不時着。
ソニックは起き上がり、フォックスの胸ぐらを掴んだ。
「お前……」
「俺と勝負しろ! ソニック!」
――はぁ?
「名目はトライアスロン! 一番速いのは俺だ!」
「そういう事か……いいぜ! 受けてたってやる!」
「最初の種目は水泳だ!」
フォックスは言ったのと同時に海に飛び込んだ。
ソニックも追いかけたかった。
だが、水泳となると、彼の足は動かなかった。
「……ッ! こんな所で負けてたまるかー!」
震える足を我慢して、彼は意を決して海に飛び込んだ。
溺れた。
「無茶をする奴だ……」
ドクターが診察を終えた。
意識は無いが、命に別状は無いらしい。
暫くすれば目覚めるだろうと言った。
「フォックス……お前、ソニックが泳げねぇの知ってんだろ」
「だって勝ちたいもん!」
ファルコがフォックスを咎める。
「まぁ良いじゃないか。……どうせ無事では済まん」
「え」
ドクターの声が嫌に低く聞こえた。
手には、見たことの無い薬。
「待て! やめろ!」
「つーかテメェどうせっつったな! 確信犯かっ!」
時既に遅し。
妖しげな薬はソニックの口へと運ばれた。
2人が嘆きの声を上げる。
案の定、ソニックの体はびくんと震えた。
3人が反射的に離れる。
ソニックの目が見開かれた。
しかし、彼の目は白目だった。
ドクターを除く2人が「ひぃ」と声を上げた。
ドクター……薮医者は、ほう、と感嘆したように呟いた。
「けきゃきききけけけぇぇ!」
ソニックの首が360度ぐるりと回った。
どんな風に回ったかは想像に任せるとしよう。
流石にドクターも顔を引きつらせた。
フォックスとファルコは互いに身を寄せあい震えていた。
ソニックは怪奇な声と動きをしながら、海に走っていった。
真夏のホラー、ここに見たり。
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