novel

□未来の約束
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トレミーと合流し、刹那はまず医療カプセルの中に放り込まれた。
一先ずの休息が与えられ、トレミーの補修に奔走するなか、フェルトはその合間になるべく医務室にいるようにしていた。
今もハロを連れてカプセルのすぐ横で刹那の目覚めを待つ。

四年の時を経て、刹那は大人になった。
身長だって大分離されてしまって少し寂しい。身長分だけ刹那が遠くに行ってしまったような気がして。
昔、ニールは自分と刹那はそっくりだと言った。双子の兄妹みたいだと。
二人とも無口で感情を表すのが苦手で、だからこそ自分と刹那は近くにいて一番理解できる、そう、まさに兄妹みたいな存在だった。
だけど今は違うとフェルトは思う。
自分達はニールが大好きだった。
年が離れた兄と、双子の兄妹みたいな関係だったんだとフェルトは思う。
ニールに教えてもらったことは数えきれないほどある。その中でフェルトは恋を知った。優しくて苦しくて苦い淡い恋を知った。
そして刹那は――

刹那の中でニールが息づいているのがわかる。
ニールが教えてくれたこと、笑顔の浮かべ方とか、そんな小さなことも一つ一つ息づいて。
刹那は刹那で、だけどそこには確かにニールの面影がある。
彼の想いを継いで一緒に戦っている刹那は、ニールのにおいがして、今は自分よりニールと似てると思う。

私は、何をしているのだろう。

全部、中途半端になってる。ニールへの恋心も昇華しきれてなくてライルに面影を追ってしまって、クリスたちを殺した敵側にいたマリーに嫌味を言ってしまう、そんな自分に嫌悪して嫌いになってく。
刹那が遠くなってしまったように感じるのはきっと、自分が立ち止まってしまったから。
わかっているのに、踏み出せない。

『フェルト!ゲンキダセ!ゲンキダセ!』
「ハロ…大丈夫だよ」
『ホント?ホント?』
「ほんと。」

優しいAI。この子もニールに似ている。
そう思ってまた自分が嫌になった。
また彼を探してる。

警告音が鳴ってはっとカプセルを見ると、治療終了のランプが点滅し刹那の目覚めを知らせた。
カプセルが開き、刹那を覗き込むと徐々に褐色の瞳が姿を現す。
何度か瞬きして、刹那はフェルトを認識し掠れた声で名を呼んだ。

「よかった…具合はどう?」
「大丈夫だ」
『セツナ!ビネツアル!アンセイ!アンセイ!』
「ベッド、移ろう?」
「…ああ」

刹那の傷に障らないよう、慎重に自分の肩に腕を回させて、支えながら柔らかなベッドに移動する。
数メートルの移動でも疲れた様子の刹那に、フェルトは水を渡して持参していたリンゴを剥き始めた。
そんな彼女を目で追いながら、刹那は少し頬を緩めて笑んだ。

「ロックオンも…ニールもそうしてたな」
「…うん。寝込んだ時にリンゴ剥いてくれたね。すりおろした方が良い?」
「いや、そのままで構わない」

刹那が熱を出した時。フェルトが熱を出した時。見舞いにリンゴを持ってきてくれた。
すりおろしてくれたり、ウサギリンゴにしてくれたり、チューリップにもしてくれた。そんな優しい記憶。
フェルトがリンゴを持ってきたのは無意識で、ニールのせいで二人には寝込む事とリンゴは繋がってしまっている。

「…夢を見た」
「夢?」
「過去の夢。そしてニールが出てきた。」

しゃく、と刹那はウサギリンゴを一口かじる。初めての時に皮のあるところから食べてニールに大笑いされたことを思い出した。

「夢で…過去によって変えられるのは、自分の気持ちだけだと、言われた」

はっとフェルトはウサギをつくる手を止める。
過去は過去、変えられない。

「そして、変われと言われた。変わらなかった俺の代わりに…変われと」

過去に囚われずに未来を、と。その先に待つものをニールはその身で教えていった。
ニールはわかってたクセに気持ちを変えられなかった。…変わらなかった。
今の自分。そうフェルト己を省みる。
両親、ニール、クリス、リヒティ、モレノ…過去に囚われて動けない、自分がいた。未来を見れない自分がいる。
でも、ニールがそう言ったのなら。過去を見つめて変わることができるのかもしれない。

「刹那は変わるの?」
「変わりたいと思う。」
「…私も、変わる。いつかニールに会ったとき、誇れる自分でいたい。」
「そうだな」

前を向いて。未来を見つめて変わっていけたら。
そうしたら、ニールは誉めてくれるだろうか。頭を撫でてくれるだろうか。

「未来で、私たちが見つめた世界をニールに報告できたらいいね」
「…そうだな。」
「だから刹那。生き残ってね」

あの時貴方がくれた言葉を、刹那に贈る。
ニール、貴方は変われない自分がどんな道を辿るのか、知っていたのかな。
だから、私に生き残れと言ったの。

「違う、フェルト」

静かに、力強く刹那は言い切った。
その眼差しは強くフェルトを射抜く。

「生き残るんだ。俺も、アンタも。生き残って、アイツに報告する」
「…!」

ぼろりとフェルトが無意識に涙をこぼす。
そんなフェルトに、刹那は躊躇しながら指で涙をぬぐってくれた。
ああ、こんなところにも。とフェルトは思う。
四年前なら彼はこんな仕草はできなかった。手を差し出そうとして出来なくてさ迷わせるだろう。

「似てるね。」
「…そうか?」
「ごめんね、刹那。重ねてしまうの、嫌でしょ」
「いや。あいつに似るなら寧ろ喜ばしい。アイツが俺の中に生きてる証だ」
「…うん、そうだね」


強い刹那。
待ってて、すぐに追い付くから。
いつか未来で二人、ニールに会いに行こう。
私たち、変わったよって。

「生き残ろうね、刹那。」
「ああ。約束だ」


あなたと生き残ると約束した。
刹那と生き残ろうと約束した。

未来を見つめて生きよう。




捏造甚だしいけど、2人で前見て行って欲しいなぁ…という願望。



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